【賃貸不動産経営】初心者でも分かる!必要な維持費の内訳と予算立て方

賃貸経営のお金の話

1.不動産賃貸経営の基礎知識

不動産賃貸経営とは、アパートやマンション、オフィスビル、商業ビル、一戸建てなどの賃貸物件を所有し、入居者から家賃収入を得る事業です。物件の購入から入居者の募集・管理、退去時の原状回復に至るまで、オーナーとして様々な業務が発生します。

賃貸経営を行う際の主なメリットは以下の通りです。

  • 長期的な資産形成が可能

  • 安定した家賃収入が得られる

  • 税制面での優遇措置がある

一方、デメリットとしては、以下が挙げられます。

  • 初期投資が大きい

  • 空室リスクがある

  • 入居者トラブルの可能性がある

賃貸経営を成功させるためには、立地や物件の選定、適切なコスト管理、法律知識の習得が欠かせません。初心者でも、基礎知識を身につけることで安心して取り組めるビジネスです。

 

2.不動産賃貸経営に必要な維持費

(1)固定費

– 借入金の返済(ローン残高、金利等)

不動産賃貸経営を行う際に最も大きな固定費となるのが、借入金の返済です。不動産購入時に抵当権を設定した銀行などの金融機関からの借入金の残高に応じて、毎月の返済額が決まります。

返済額は以下の要素から構成されています。

要素

内容

元金

借入金の実際の残高部分

利息

金利×借入残高で算出される金額

諸費用

火災保険料、収納事務手数料など

特に金利は、借入期間が長期になればなるほど総返済額に大きな影響を与えます。例えば10,000万円の借入で、年利1.0%の場合と1.5%の場合では、35年の返済期間で総返済額に約2,000万円の差が生じます。

そのため、金利の高低が賃貸経営の収支に大きな影響を及ぼすことから、低金利のローンを選ぶことが重要です。また、借入期間が長期になるほど総返済額が大きくなるため、早期の完済を目指すことで金利負担を軽減できます。

– 委託費(管理手数料、ごみ処理料、清掃費、警備費等)

賃貸物件の維持管理業務を専門の管理会社に委託する場合、様々な費用が発生します。主な委託費の内訳は以下の通りです。

費用

内容

管理手数料

管理会社への基本的な委託料金。建物の規模や管理内容により異なる。

ごみ処理料

一般廃棄物の処理にかかる費用。

清掃費

共用部分の清掃にかかる費用。

警備費

セキュリティシステム費用など。

管理費はたいてい建物の賃料収入の3〜5%程度が目安となります。建物が大規模で設備が充実しているほど、委託費の金額は高くなる傾向にあります。

専門の管理会社に委託することで、入居者対応や建物の日常管理が円滑に行えるメリットがあります。一方で、委託費が賃料収入を圧迫する可能性もあるため、適切な業者の選定が重要になってきます。

管理会社選びのポイントはこちら↓

【不動産賃貸経営】管理会社選びのポイント5つ。オーナー必見の選び方
1.はじめに 賃貸経営を行う上で、管理会社の選定は非常に重要な決断となります。賃貸物件の運営・管理を適切に行えるかどうかは、管理会社次第と言っても過言ではありません。 管理会社には以下のような役割が期待されています。 役割 内容 入居者募集...

– 設備保守点検費(エレベーター、消防、貯水槽、浄化槽)

賃貸物件を適切に維持管理するには、建物設備の定期的な保守点検が必要不可欠です。法令で義務付けられている設備もあり、専門業者に委託して実施する必要があります。

主な設備保守点検費の内訳は以下の通りです。

設備

保守点検内容

エレベーター

年次・月次点検、法定検査

消防設備

自動火災報知設備、スプリンクラー設備の点検

貯水槽

清掃、残留塩素測定

浄化槽

保守点検、法定検査、汚泥処理

これらの点検費用は、設備の種類や規模によって異なります。建物が大きければ、それだけ費用も高額になる傾向にあります。

保守点検は建物の安全性を確保し、入居者の安心につながるだけでなく、設備の長寿命化にも貢献します。適切な時期に計画的に行うことが重要です。

– 修繕費(定期的な外壁・設備補修費用)

賃貸物件の維持管理には、定期的な修繕が欠かせません。建物の外壁や設備機器は、経年劣化により性能が落ちていきます。外壁の塗装が剥がれたり、設備機器が故障すると、建物の資産価値が下がるばかりか、入居者の快適性も損なわれてしまいます。

一般的な修繕サイクルとしては、以下のようになっています。

部位

サイクル

外壁塗装

8〜12年

屋上防水

10〜15年

エレベーター

20年

空調設備

15年

このように、部位によって修繕サイクルが異なります。予算を立てる際は、建物の築年数や設備の状態を確認し、優先順位をつけて計画的に修繕費を確保する必要があります。

修繕費の目安としては、年間賃料収入の5〜10%程度を見込むのが一般的です。ただし、築年数が古い物件や大規模修繕が控えている場合は、さらに多くの修繕費が必要になる可能性があります。

– 固定資産税・都市計画税

賃貸不動産経営においては、固定資産税と都市計画税の支払いが必須となります。これらは地方自治体が課す税金で、土地や建物の所有者に課せられるものです。

固定資産税の計算方法は以下の通りです。

対象

計算式

土地

土地課税標準額 × 税率(1.4%が標準)

家屋

家屋課税標準額 × 税率(1.7%が標準)

都市計画税は固定資産税額に対する一定割合(通常0.3%)で計算されます。

これらの税金は、1年分を年4回(4月、7月、12月、翌年2月)に分けて支払う場合がほとんどです。

税金は経費から控除可能なので、確定申告時に必要経費に計上できます。しかし、初年度は取得時の固定資産税・都市計画税を前所有者と按分して支払う必要があり、その分が経費からは控除できないことに注意が必要です。

– 保険料

賃貸不動産経営では、さまざまな保険に加入することが必須です。主な保険の種類と概要は以下の通りです。

保険の種類

概要

火災保険

建物が火災などで損害を受けた場合に備えた保険。地震による損害は補償外が一般的。

建物全体の保険はオーナーが加入する必要がある。

賠償責任保険

賃借人や第三者に損害を与えた場合の補償をカバーする保険。

原則入居者が加入する。

家賃保証保険

賃借人の家賃滞納などに備えた保険。滞納リスクを軽減できる。

入居者が加入する。

加入する保険の種類は物件の種別や立地条件、リスク許容度などによって異なります。例えば、老朽化が進んだ物件では地震保険にも加入するなど、柔軟に判断する必要があります。

初期投資額に対して保険料の割合は決して無視できる金額ではありません。賃貸経営の計画段階から保険料を精緻に見積もり、収支予測に組み込むことが重要です。適切な保険に加入することで、リスクを最小限に抑えた安定経営を実現できます。

(2)変動費

– 入退去関連費(広告費・原状回復費等)

入退去に関連して発生する費用は、新規の入居者募集に係る広告費や、退去時の原状回復工事費などが主なものです。

広告費は、物件の立地や設備状況、募集時期などにより変動しますが、概算では以下のように見積もられます。

物件条件

広告費(1物件あたり)

客付けしやすい立地、物件スペック

広告費0

平均的な立地、物件スペック

賃料1ヶ月

客付けしずらい立地、物件スペック

賃料2~3ヶ月

一方、原状回復費は、退去者による汚損や破損状況次第で金額が大きく変わります。軽微なクロス張り替えであれば数万円程度ですが、畳の入れ替えやフローリング補修が必要になれば数十万円にも上ることがあります。

現在ではガイドラインに従い、経年劣化による汚れや損耗の場合は賃貸経営者側が負担する必要があります。

このように入退去に伴う費用は、物件の状況や募集条件によって大きく異なるため、一概には言えませんが、予算の目安として1年間の家賃収入の5%程度は見込んでおく必要があります。

– 空室リスク対策費(大規模なリフォーム等)

賃貸物件の空室期間が長引くと、大きな家賃収入の損失に繋がります。空室リスクを抑えるため、定期的に内外装のリフォームを行い、物件の資産価値を維持・向上させることが重要です。

大規模リフォームの主な項目と概算費用は以下のとおりです。

項目

概算費用

内装(クロス張替、床張替、建具交換等)

20万円〜50万円

水回り(キッチン、浴室、洗面台交換)

50万円〜100万円

外装(外壁塗装、屋上防水等)

200万円〜500万円

これらの費用は物件の広さや築年数で大きく変わるため、詳細な見積りが必要です。初期投資額の10%程度を目安に、リフォーム費用の予算を計上するのが賢明です。

– 水道光熱費(共用部分)

賃貸不動産の維持費には、共用部分の水道光熱費も含まれます。具体的には以下のようなものになります。

  • 水道代

    • 共用部エントランス・廊下の水道代

    • 井戸水を使用する場合の電気代

  • 電気代

    • 共用部エントランス・エレベーター・廊下・駐車場の電気代

  • ガス代

    • 共用部給湯設備があればその費用

共用部分の光熱費は建物の規模によって大きく異なります。賃料収入の2~3%程度が目安となり、特に大規模な賃貸マンションの場合、この費用が高くなる傾向にあります。

収支予測を立てる際には、過去の実績を参考にしつつ、適切に見積もることが重要です。共用部分の光熱費をおろそかにすると、思わぬ支出が発生する恐れがあるためです。

 

3.賃貸経営の予算立て方

(1)収支予測の重要性

賃貸不動産経営を始める際、収支予測を立てることは非常に重要です。なぜなら、これにより将来の収益性を見積もることができるからです。

収支予測では、以下の2点を試算します。

項目

内容

収入

家賃収入、駐車場収入、共益費収入など

支出

固定費(ローン返済、管理委託費、修繕費など)と変動費(空室リスク対策費、入退去関連費など)

これらをもとに、収支の均衡点を把握します。さらに、様々なリスクを想定した上で、その対策費用を計上することも重要です。

このように、収支予測を立てることで、賃貸経営に伴う収益性を事前に検証できます。また、様々な収支の変動パターンをシミュレーションできるため、経営の安定性も高めることができるのです。

(2)家賃収入の試算(立地・広さ等から算出)

家賃収入を正確に見積もることは、賃貸経営の収支予測において極めて重要です。家賃収入の試算は以下の要素を総合的に勘案して行います。

  • 物件の立地条件
    物件の所在する地域の家賃相場、周辺の利便性(駅・商業施設への近接性)、治安など

  • 間取り・広さ
    賃貸物件の間取り(ワンルーム、1K、2DKなど)、専有面積の広さ

  • 建物の築年数・設備状況
    建物の経年による家賃下落リスク、設備の古さなどを考慮

  • 周辺の競合物件
    近隣の同種の賃貸物件の家賃水準や稼働率

例えば、以下のような物件であれば、

物件概要

所在地

東京都◯◯区

最寄駅

〇〇線 A駅 徒歩5分

間取り

ワンルーム

専有面積

25㎡

築年数

15年

この地域の家賃相場は7万円前後と想定されます。立地と広さから適正家賃は月額6万5千円程度が見込まれます。隣地に大型分譲マンションがあるため、やや低めの家賃設定が望ましいでしょう。

このように、様々な要因を総合的に勘案し、適正な家賃収入を算出することが重要です。

(3)費用の詳細な積み上げ試算

賃貸経営の収支をしっかりと把握するには、費用を詳細に積み上げる必要があります。主な費用項目は以下の通りです。

費用項目

具体例

借入金返済額

毎月の元金返済額及び支払利息額

委託費

管理会社への手数料、清掃費、警備費など

設備保守点検費

エレベーター、消防設備、貯水槽の点検代

修繕積立金

外壁補修、設備更新の将来費用に備える

固定資産税・都市計画税

物件の評価額に応じた課税額

保険料

火災保険、地震保険など

これらの費用は、物件の規模や立地条件、築年数などによって大きく異なります。そのため、積み上げ試算時には、過去の実績や類似物件の費用水準を参考にするのが賢明です。

また、入居者の退去に伴う原状回復費用や空室リスク対策費なども見込んでおく必要があります。さらに、水道光熱費の共用部分分も賃貸経営者の負担となります。このように、賃貸経営には様々な費用が潜んでいますので、慎重な試算が欠かせません。

(4)リスク想定と対策費用の計上

賃貸経営においては、様々なリスクが潜んでいます。リスクへの備えとして、対策費用を事前に算出し、予算に計上しておくことが大切です。

主なリスクと対策費用は以下の通りです。

リスク

対策費用

長期空室

広告宣伝費、家賃値下げ分

大規模修繕

外壁・屋上・設備補修積立金

入居者トラブル

原状回復費、訴訟対応費

災害被害

地震保険料、災害積立金

例えば、長期空室に備え、通常の広告費の2〜3倍程度を広告宣伝費として計上します。大規模修繕に備えては、建物価格の0.5%程度を積み立てるのが一般的です。

このように、リスクの種類や規模を想定し、適切な対策費用を予算に組み入れることが、健全な賃貸経営を行う上で欠かせません。

 

4.賃貸経営を始める際の留意点

(1)目的と目標の設定(資産形成か生活費の足しに等)

賃貸経営を始める際には、事前に目的や目標を明確にしておくことが重要です。資産形成のための投資なのか、生活費を補填するためなのか、それとも老後の収入源を作ることが目的なのかによって、物件の選び方や運用方法が変わってくるからです。

目的

特徴

資産形成

長期的な視点で資産価値の向上を目指す。立地が良く将来性のある物件を選ぶ。

生活費の足し

できるだけ初期投資を抑え、すぐに賃料収入を得られる物件を選ぶ。

老後の収入源

長期的に安定した収入が得られる物件で、管理も最小限に抑えられるものが向いている。

このように目的を明確にすることで、適切な物件選びやリスク対応ができるようになります。賃貸経営に取り組むなら、まずはあなたの目的や目標を明確にすることが大切なスタートラインです。

(2)立地とターゲット層の選定

賃貸経営で最も重要なことは、物件の立地とターゲット層を的確に設定することです。

まず、物件の立地条件を検討します。駅からの距離、周辺の利便性、治安などが挙げられます。例えば、通勤・通学利便性が高い駅近物件であれば、単身者や小家族層をターゲットにするのが一般的です。一方、住宅街の中にある広い間取りの物件であれば、ファミリー層や高年収層をターゲットにするのがよいでしょう。

次に、ターゲット層の生活スタイルや嗜好を想定し、設備やデザインを選定します。

ターゲット層

設備・デザインの例

単身者・DINKS

コンパクト、収納スペース、防犯性

ファミリー層

キッチン、複数の居室、子育て支援施設

高年収層

広い居室、高級感のある内装、高級設備

立地とターゲット層に合わせて、適切な賃料設定も重要です。周辺の相場や競合物件を参考にしつつ、オーナー側の収支計画も踏まえて決定します。このように、立地とターゲット層の選定は、物件のスペックや賃料設定に直結する重要な要素なのです。

(3)長期視点での計画立案(10年後を見据える等)

賃貸経営は長期的な資産運用を前提としていますので、10年後、20年後を見据えた計画が必要不可欠です。建物の経年劣化に伴う大規模修繕や設備の更新、入居者ニーズの変化などを想定し、以下のような長期的な視点に立った対策が重要となります。

  • 建物・設備の大規模修繕計画の策定
    • 築年数に応じた修繕周期を想定し、適切な修繕積立金を確保

    • 長期修繕計画の見直し(5年に1度等)

  • 入居者ニーズの変化への対応

    • 地域の人口動態や世帯構成の変化を注視

    • 必要に応じた室内リフォームや設備の更新

  • 周辺環境の変化への備え

    • 商業施設の立地動向や交通アクセスなどの変化に注目

    • 居住環境の魅力維持のための対策検討

長期的な視点は、賃貸経営における収支予測や資金計画の立案にも不可欠です。10年後、20年後の賃料水準や費用の変動を適切に織り込み、健全な経営を持続できるよう計画していくことが肝心です。

(4)不動産関連知識の習得(法律・税制等)

賃貸経営を始める際には、不動産に関する法律や税制についての知識が不可欠です。主な関連法令は以下の通りです。

法令名

概要

借地借家法

賃貸借契約における権利義務を規定

民法

不動産売買や賃貸借の一般ルールを規定

建築基準法

建物の構造安全性や防火対策を規定

住宅の品質確保促進等に関する法律

住宅の性能や瑕疵担保責任を規定

また、税制面では以下が主なポイントとなります。

  • 不動産収入は「事業所得」に該当し、必要経費を差し引いた残りが課税対象

  • 固定資産税や都市計画税が賃貸経営の主な税金

  • 減価償却費が大きな必要経費となる

このように、関連法令や税制を熟知しておくことが、トラブル回避やコスト管理に役立ちます。専門家に相談しながら知識を深めることをおすすめします。

 

5.まとめ

賃貸不動産経営を始める際は、長期的な視点で計画を立てることが重要です。収支予測を綿密に行い、立地やターゲット層を的確に設定することで安定した家賃収入が見込めます。一方で、借入金の返済や修繕費、空室リスク対策費など、様々な維持費用が発生することを認識しておく必要があります。

主な維持費の内訳

固定費: 借入金返済、委託費、設備保守点検費、修繕費、固定資産税・都市計画税、保険料

変動費: 入退去関連費、空室リスク対策費、水道光熱費(共用部分)

このように、不動産賃貸経営には多くの経費がかかります。初心者の方は、賃貸経営に係る収支の詳細を把握し、リスクを想定した上で対策費用を確保することが賢明でしょう。不動産関連の専門知識を習得し、中長期的な計画のもと着実に資産を育てていくことをおすすめします。

タイトルとURLをコピーしました