不動産賃貸経営は儲からない。そんな話をよく耳にしませんか?
それは半分は事実で、半分嘘はウソです。賃貸経営は家賃収入はまるまる儲けになる訳ではなく、意外に維持コストがかかるものだからです。この記事では、必要な費用の落とし穴と対策方法を説明します。
1. 賃貸経営にかかる初期費用
物件購入費
賃貸経営を始める際の最大の費用は、物件の購入費用です。物件購入の場合は販売価格が購入費用となりますが、新築物件を建てる場合は土地取得費と建物建築費の合計額が購入費用となります。
物件の種類や立地条件によって価格は大きく異なります。購入費用は借入金で賄う場合が多く、その際にはローン関連費用(審査料、保証料など)も必要となります。また、物件取得時には不動産取得税や登録免許税などの諸費用も発生しますので、初期投資額は物件価格よりもかなり高くなることを覚悟しなければなりません。
諸費用(不動産取得税、登録免許税など)
賃貸経営を始める際には、物件購入費や建築費のほかにも様々な諸費用がかかります。主な諸費用としては以下のようなものがあります。
費用名 |
説明 |
---|---|
不動産取得税 |
土地や建物を取得した際に課される税金で、取得価格の3~4%程度 |
登録免許税 |
不動産の所有権移転登記を行う際に課される税金で、登録免許税率は2%程度 |
印紙税 |
契約書等に貼付が義務づけられている収入印紙の代金 |
仲介手数料 |
不動産業者に支払う仲介手数料(通常は売買価格の3%前後) |
このように、物件を取得する際には取得価格以外にも多額の諸費用が必要となります。特に不動産取得税と登録免許税は、物件価格に応じて高額になる可能性があるため、十分な予算計上が欠かせません。
ローン関連費用
物件購入時にはローンを組む必要があり、その際にかかる費用があります。主なローン関連費用を紹介します。
費用項目 |
概要 |
---|---|
借入手数料 |
金融機関に支払う手数料で、借入金額の1~2%程度が一般的です。 |
保証料 |
金融機関に対する保証料で、借入金額の0.5~1%程度が目安です。 |
火災保険料 |
物件の火災保険料で、保険会社に支払う必要があります。 |
登記費用 |
抵当権設定の登記費用で、物件の価格によって異なります。 |
これらのローン関連費用は、一括で支払うことが多いため、初期投資額が大きくなります。金利タイプの選定や借入期間の設定によって、ランニングコストを抑えることも重要です。賃貸経営においては、的確な資金計画が不可欠です。
2. 賃貸経営の維持費用
管理費(水道光熱費、清掃費、管理委託料など)
賃貸経営において、管理費は毎月必ず発生する経費です。主な管理費は以下の通りです。
管理費の内訳 |
概要 |
---|---|
水道光熱費 |
共用部分の電気代、ガス代、水道代 |
清掃費 |
エントランスや階段、駐車場や駐輪場などの清掃代 |
管理委託料 |
管理会社への委託費用 |
その他 |
エレベーターや消防設備などの保守点検費用など |
光熱費や清掃費は、物件の広さや設備の状況によって変動します。管理委託料は、管理会社によってサービス内容が異なるため、比較検討が重要です。
管理費を抑えるためには、省エネ対策による光熱費の削減や、自身で清掃を行うことで費用を節約できます。また、低コストの管理会社を選ぶことも有効な方法の一つです。
管理費は経費として申告が可能です。個人所有であれば青色申告を行えば、申告による税額控除のメリットを受けられます。賃貸経営における管理費は、適切なコスト管理が不可欠となります。
修繕費
賃貸経営では、建物の経年劣化による修繕が避けられません。そのため、修繕費の支出は必須となります。修繕費は物件の築年数や設備の老朽化具合によって大きく異なりますが、年間の家賃収入の10~20%程度を見積もっておくことが一般的です。
修繕費の支出を抑えるには、定期的な点検と計画的な修繕工事が重要です。経年劣化の早期発見と対策を怠ると、大規模な修繕が必要となり、多額の出費を強いられる可能性があります。
また、分譲マンションの場合は修繕積立金を組合費として支払う必要がありますが、賃貸経営の収支計画にはこの金額も織り込んでおく必要があります。
空室時の損失
賃貸経営において、空室状態が続くと大きな損失につながります。空室期間中、家賃収入はゼロですが、維持費用は発生し続けるからです。具体的には以下の費用が空室期間中も発生します。
費用項目 |
内容 |
---|---|
管理費 |
水道光熱費、清掃費、委託管理料など |
修繕費 |
定期的な修繕費用 |
税金 |
固定資産税、都市計画税など |
ローン返済 |
物件購入のためのローン返済 |
空室期間が長引けば、これらの費用の累積額は膨らむ一方です。入居者がいれば家賃収入で賄えますが、空室では全額が赤字となります。
空室リスクを低減するには、入居者ニーズを把握した適正な家賃設定と、インターネット広告などによる効果的な広告宣伝が重要です。また、空室対策費用として広告費を事前に計上しておくことで、空室が発生しても一定期間は対応できます。
税金(固定資産税、個人事業税など)
賃貸経営では、不動産の所有や事業収入に対して様々な税金を支払う必要があります。主な税金は以下の通りです。
税金名 |
内容 |
---|---|
固定資産税 |
土地や建物の資産価値に応じて課税される税金。毎年1月1日時点の価値に基づいて算出されます。 |
都市計画税 |
固定資産税とともに課税される付加税。道路や公園など、都市基盤整備に充てられます。 |
個人事業税 |
不動産所得から必要経費を差し引いた金額に対して課税される所得税です。前年の所得金額に応じて計算されます。 |
これらの税金は、賃貸経営の収支に大きな影響を与えます。特に固定資産税は、空室時でも発生するため、長期的なキャッシュフローを圧迫する恐れがあります。適切な家賃設定と入居率の維持が重要となります。また、青色申告を行うことで必要経費の計上が可能になり、個人事業税の節税につながります。
3. 賃貸経営で黒字化するためのポイント
適切な家賃設定と入居率の維持
賃貸経営で黒字化するためには、適切な家賃設定と高い入居率の維持が重要です。家賃が高すぎると入居者が集まらず、低すぎると収益が伸び悩みます。
最適な家賃設定には、以下の3点を考慮する必要があります。
-
立地条件
-
駅からの距離
-
商業施設の有無
-
病院、学校や公園の近接性
-
-
物件の状態
-
築年数
-
間取り
-
設備の新旧
-
-
周辺の家賃相場
-
同一エリアの類似物件の家賃
-
立地条件 |
物件の状態 |
周辺相場 |
---|---|---|
良好 |
良好 |
高め |
普通 |
普通 |
中間 |
劣る |
古い |
安め |
上記の3点を総合的に勘案し、適正な家賃を設定することが重要です。
また、高い入居率を維持するには、効果的な広告の出稿や、内見対応の徹底、リフォームによる物件の魅力向上など、様々な対策が必要不可欠です。
費用の節減(青色申告の活用、低コスト管理会社など)
賃貸経営で黒字化するためには、費用の節減が重要なポイントとなります。まずは青色申告を活用し、必要経費の全額を控除できるようにすることで、確定申告での節税を図ることができます。
種類 |
青色申告 |
白色申告 |
---|---|---|
収入金額控除 |
必要経費の全額控除可能 |
収入金額の40%が必要経費とみなされる |
次に、低コストの管理会社を選ぶことで、月々の管理費用を抑えられます。大手管理会社に比べ、個人経営の管理会社は手数料が安価な傾向にあります。ただし、サービス内容や信頼性などを確認する必要があります。
このように、青色申告の活用と低コスト管理会社の選定により、賃貸経営の維持費用を大幅に抑えられるため、黒字化につながります。
長期的な視点でのコスト管理
賃貸経営では、初期費用だけでなく長期的な維持費用を見据えることが重要です。
賃貸物件の寿命は一般的に30年から50年程度と言われています。長期的な維持費用を適切に算出するには、この寿命期間を考慮する必要があります。
例えば以下のような費用は、長期的な視野に立って管理することが賃貸経営の黒字化につながります。
費用項目 |
概算費用 |
管理のポイント |
---|---|---|
屋根の防水 |
平均20万円/戸 |
15年に1回の修繕が目安 |
外壁の塗装 |
平均10万円/戸 |
8~12年に1回の塗装が目安 |
設備機器の交換 |
平均30万円/戸 |
10~15年に1回の交換が目安 |
このように、長期的な視点で修繕費などのコストを予測し、資金計画を立てることが重要です。コストを平準化して管理することで、安定的な賃貸経営が可能になります。
4. 賃貸経営のリスクと対策
空室リスクへの対策(適正家賃、広告出稿など)
空室リスクを回避するためには、適正な家賃設定が何より重要です。周辺の相場や物件の状況を踏まえた上で、入居希望者が支払える範囲内で競争力のある家賃を設定しましょう。
家賃設定のポイント |
---|
・近隣の相場を調査する |
・物件の立地条件や設備を勘案する |
・必要に応じて値下げを検討する |
また、広告の出稿も空室対策の有力な手段です。WEBサイトやポータルサイト、SNSなど、複数の媒体を活用することで物件の露出を高められます。広告の内容も、物件の魅力が伝わるような写真や説明を心がけましょう。
空室が長期化すれば、家賃収入の減少に加え、空室管理コストも発生します。適切な家賃設定と広告出稿で、空室リスクを最小限に抑えることが賃貸経営の収支を左右する重要なポイントです。
老朽化リスクへの対策(計画的な修繕、リフォームなど)
時間の経過とともに、建物は劣化していきます。適切な維持・管理を怠ると、思わぬ費用が発生する可能性があります。
賃貸経営では、次のような対策が有効です。
-
長期修繕計画の立案
-
建物の部位ごとの修繕周期、費用を見積もり
-
年次ごとの修繕費を予め計上する
-
主な修繕項目 |
目安周期 |
---|---|
外壁塗装 |
8~12年 |
屋上防水 |
12~15年 |
設備機器更新 |
10~15年 |
-
計画的なリフォーム
-
入居者ニーズに合わせて部分的に改修
-
場合によっては間取り変更など大々的なリフォームを行う
-
家賃値上げや入居促進につながる
-
-
長期修繕積立金の確保
-
修繕費用を賃料から毎月積立
-
突発的な費用にも対応できる
-
建物の老朽化は避けられませんが、事前の計画と準備により、リスクを最小限に抑えることができます。
金利変動リスクへの対策(長期固定金利の検討)
金利が上昇すれば返済額も増えてしまうため、賃貸経営における収支を圧迫するリスクがあります。この金利変動リスクを回避するための有力な対策が、借入時に長期固定金利を選択することです。
金利種別 |
メリット |
デメリット |
---|---|---|
変動金利 |
当初の返済額が低い |
金利上昇で返済額増加のリスク |
長期固定金利 |
金利変動の影響を受けない |
当初の返済額が高め |
長期固定金利は当初の返済額は高めですが、金利の変動による影響を受けません。10年や20年といった長期にわたって金利が固定されるため、賃貸経営の収支計画が立てやすくなります。
一方で、変動金利は当初の返済額は低めですが、金利が上昇すれば返済額も増えてしまいます。金利の先行きが不透明な場合は、リスクを避けるため長期固定金利を選ぶのが賢明です。
ただし、長期固定金利は変動金利に比べて金利水準が高めに設定されている場合が多いため、金利予測と借入期間を勘案して総合的に判断する必要があります。
5. まとめ(儲からない落とし穴と対策)
不動産賃貸経営で儲からない主な落とし穴は以下の通りです。
落とし穴 |
対策 |
---|---|
家賃設定ミスによる低収入 |
相場を把握し適正家賃を設定する |
高い管理費用 |
青色申告の活用、清掃費や点検費などが低コストな会社の選定 |
空室リスク |
広告出稿、適正家賃設定、リフォームによる入居率の維持 |
老朽化による修繕費増加 |
計画的な修繕、リフォームの実施 |
金利変動リスク |
長期固定金利の検討 |
賃貸経営で黒字化するには、適正家賃設定と入居率の維持はもちろん、コストの節減と長期的な視点でのリスク対策が重要です。空室リスクや老朽化リスクを見据えた備えも欠かせません。リスクを軽視せず、事前の対策を怠らないことが賃貸経営で利益を上げるカギとなります。