1. はじめに
不動産経営を始めるにあたっては、適切な資金計画を立てることが極めて重要です。
資金計画を適切に立てないと、物件購入の際に資金不足に陥ったり、経営の途中で資金繰りに窮したりする可能性があります。そうなれば、事業の継続が困難になる恐れがあるでしょう。
そこで、この章では、不動産経営を円滑に行うための資金計画の立て方とポイントについて解説します。
まず初めに、【2. 不動産経営に必要な初期費用】として、物件購入費用や諸費用などについて概観します。
次に【3. 不動産経営の運営費用】として、経営を続けていく上で必要となる固定費や変動費について説明します。
その上で、【4. 資金調達の方法】と【5. 資金計画の立て方】を具体的に解説することで、適切な資金計画を立てるためのポイントを押さえていきます。
不動産経営は長期に渡る事業です。スムーズな運営を続けるためにも、資金面での十分な準備が欠かせません。この章を参考に、皆さまの事業が発展することを願っています。
2. 不動産経営に必要な初期費用
(1) 物件購入費用
物件購入費用は、不動産経営において最も大きな出費となります。物件の価格は地域や物件の条件によって大きく異なりますが、築年数が古い物件は新築物件に比べて購入価格が抑えられる傾向にあります。物件選定の際は、ターゲットとする需要や物件の状態、立地条件などを総合的に検討し、最適な物件を見極める必要があります。
(2) 仲介手数料
不動産の売買や賃貸借の際には、不動産仲介業者の仲介手数料が発生します。仲介手数料は、通常、物件価格の一定割合で設定されています。例えば、物件価格の3%程度が一般的な仲介手数料の水準です。この手数料は、売主及び買主双方が負担することが一般的です。仲介手数料は初期費用の中でも大きな出費となるため、物件選定の際には仲介手数料も考慮に入れる必要があります。
(3) 印紙代・登記費用
物件の所有権を移転するための印紙代や登記費用も初期費用に含まれます。印紙代は売買する物件の価格に応じて定められており、物件価格が高いほど印紙代も高額になります。また、登記費用は物件の種類や登記の内容によって変動します。これらの費用は売主と買主がそれぞれの分を負担するのが一般的で、売買契約の内容によっては、登記手続きをする司法書士が売主指定になることもあります。物件購入時は、印紙代と登記費用を含めた総額を見積もる必要があります。
(4) ローン関連費用
物件購入時に必要となるローン関連費用には、融資金額に応じた借入手数料や保証料、登録免許税、印紙税などが含まれます。借入手数料は一般的に融資額の0.5%から2%程度が目安となります。また、登録免許税は物件価格に応じて定められており、これらは買主側の負担となります。さらに、ローン金利にも注意が必要です。金利が高いと、長期的な返済負担が重くなるため、できるだけ低金利のローンを選択することが重要です。
(5) 保険料
不動産経営においては、物件の修繕や火災、自然災害などのリスクに備えて、適切な保険に加入することが不可欠です。融資を受ける場合は、火災保険に加入する必要があります。また、建物の構造や築年数によっては地震保険の加入も検討すべきでしょう。保険料は物件の特性によって変わりますが、初期費用の中でも重要な項目ですので、事前に十分に見積もっておく必要があります。保険は万が一のリスクに備えるための重要な経費といえます。
(6) 不動産取得税
不動産取得税は、物件購入後に必ず支払わなければならない税金です。取得税率は通常固定資産税評価額の4%(特例で3%)ですが、一定の要件を満たせば減免措置を受けられる場合があります。具体的な税額は、物件の価格や所在地、建物の構造などによって異なりますので、事前に確認しておく必要があります。この取得税も、物件購入時の初期費用の中で大きな割合を占めるため、十分な見積もりが重要です。支払タイミングは半年~1年後ぐらいになります。
3. 不動産経営の運営費用
(1) 固定資産税・都市計画税
不動産経営における固定資産税と都市計画税は、物件の所在地や面積、建物の構造などによって変動する重要な経費です。通常、固定資産税は評価額の1.4%前後、都市計画税は0.3%前後が課税されます。これらの税金は毎年支払う必要があり、経年とともに減額される可能性がありますので、物件取得時に十分な見積もりを立てておくことが重要です。また、自治体によって税率が異なるため、物件の所在地を確認し、正確な税額を把握しておくことをおすすめします。
(2) 入居者募集費用
入居者を見つけるための費用も、不動産経営における重要な運営費用の1つです。物件の広告掲載や内見対応などに要する費用が発生します。入居者が決まれば、その後の家賃収入が安定的に得られるようになりますが、初期の入居者募集には一定の費用がかかることを見込んでおく必要があります。物件の立地や需要、競合物件の状況などを踏まえ、適切な予算を立てましょう。
(3) 修繕・リフォーム費用
物件の経年劣化に伴い、修繕やリフォームが必要になることがあります。外壁の改修や設備の更新など、中期的には大規模な修繕が必要になる可能性があります。これらの費用は物件の状況によって大きく変動するため、物件調査を十分に行い、適切な修繕費用を見積もっておくことが重要です。また、定期的な小規模修繕も欠かせません。入居者からの要望や日常の点検により、適時に修繕を行う必要があります。修繕費用は長期的な収支計画に組み込む必要があり、予期せぬ支出に備えることが重要です。大規模修繕費用は物件の状況によって大きく変動するため、定期的な物件の点検や診断を行い、必要な修繕費用を正確に見積もることが欠かせません。また、入居者からの要望に迅速に対応するため、適度な修繕積立金を確保しておくと良いでしょう。こうした予期せぬ支出に備えた資金計画を立てることで、不動産経営を長期的に安定して続けていくことができます。
(4) 管理費用
物件の適切な管理を行うために管理会社へ管理を委託する場合には、一定の管理費用が必要となります。管理費用には、賃料改修や緊急時の窓口対応、清掃や警備、設備の点検・修繕の業者手配など、物件の維持管理に関わるさまざまな費用が含まれます。管理費用を適切に見積もり、収支計画に組み込むことが不動産経営の成否を左右する重要なポイントです。
4. 資金調達の方法
資金調達の方法 この章では、不動産経営における資金調達方法について説明します。
(1) 自己資金と借入金のバランス
不動産経営を行う際は、自己資金と借入金のバランスを適切に設定することが重要です。
自己資金を多く準備できれば、借入金の負担は少なくて済みます。しかし、自己資金を多く用意するのは容易ではありません。そこで、借入金を活用する必要があります。
一般的には、次のような目安があります。
自己資金比率 |
借入金比率 |
---|---|
10~20% |
80~90% |
自己資金比率が低すぎると返済負担が大きくなり、高すぎると資金効率が悪くなります。物件の価格帯や投資家の資金力を踏まえ、上記の目安を参考にしつつ、バランスの取れた資金構成を検討しましょう。
(2) 借入期間の設定
不動産経営における資金調達では、借入期間の設定が重要なポイントとなります。借入期間が長ければ、月々の返済額は抑えられますが、総返済額は増える傾向にあります。一方、借入期間が短ければ月々の返済額は増えますが、総返済額を抑えられます。
借入期間の目安としては、20~30年の間が一般的です。
<30年ローン>
・月々の返済額が軽く、手堅い運用が可能
・総返済額が大きくなる
<20年ローン>
・月々の返済額が重くなる
・総返済額を抑えられる
物件の購入価格や自己資金の額、収支予測などを踏まえて、適切な借入期間を設定する必要があります。例えば、収益物件の場合は長期的な収支を見据えて長期間が選ばれがちです。とは言え、借入期間は建物の残存法定耐用年数に大きく影響を受けます。残存法定耐用年数が多ければ多いほど、借入期間は長く設定可能となってきます。
このように、借入期間の設定は長期に渡る資金計画に大きな影響を与えます。物件の用途や自身の投資スタンスに合わせて、慎重に検討する必要があります。
(3) 固定金利vs変動金利
不動産経営の資金調達において、借入金の金利タイプを選ぶ際は、固定金利と変動金利のメリット・デメリットを理解する必要があります。
<固定金利>
・金利が一定期間変動しない
・将来の金利上昇リスクを回避できる
・返済額が安定するので資金繰りがしやすい
<変動金利>
・当初は固定金利より低金利で借入可能
・金利が下がれば返済額が軽減される
・金利上昇時のリスクがある
一般的に借入期間が長いほど、固定金利を選ぶメリットが高くなります。例えば10年以上の長期借入の場合、固定金利を選んで将来の金利上昇リスクを回避する方が無難です。
一方、短期的な資金調達や、将来の金利低下が期待できる場合は、変動金利を選ぶメリットがあります。ただし、金利上昇に備えた返済余力は必要不可欠です。
このように、固定金利か変動金利かは、資金計画の長期性や将来の金利動向予測などを勘案して、総合的に判断する必要があります。
5. 資金計画の立て方
(1) 必要資金の正確な見積もり方法
不動産経営に必要な資金を正確に見積もるためには、初期費用と運営費用の両方を計算する必要があります。
初期費用としては、物件購入費用、仲介手数料、印紙代・登記費用、ローン関連費用、保険料、不動産取得税などがあげられます。例えば、1,000万円の物件を購入する場合の初期費用は、以下の表のようになります。
項目 |
金額 |
---|---|
物件購入費用 |
10,000,000円 |
仲介手数料(3%+6万円) |
360,000円 |
印紙代・登記費用 |
150,000円 |
借入手数料 |
50,000円 |
火災保険料 |
40,000円 |
不動産取得税(3%・特例) |
300,000円 |
合計 |
10,900,000円 |
このように、物件価格以外にも多くの初期費用が必要となります。 運営費用については、固定資産税・都市計画税、入居者募集費用、修繕・リフォーム費用、管理費用などが挙げられます。特に修繕費用は経年により増加していく傾向にあるため、長期的な費用の見積もりが重要です。
以上のように、初期費用と運営費用を詳細に見積もり、収支バランスを検討することで、必要な資金を正確に算出することができます。
(2) 収支バランスの検討
不動産経営では、収支のバランスを取ることが非常に重要です。収入より支出が上回ってしまっては事業が成り立ちません。そのため、収支バランスを常に意識し、綿密な検討を行う必要があります。
一般的な不動産経営における主な収入源は以下の通りです。
-
家賃収入
-
駐車場収入
-
共益費収入
一方、主な支出は下記のようになります。
支出項目 |
概要 |
---|---|
固定資産税・都市計画税 |
年1回納付 |
借入金の返済・利息の支払い |
毎月支払い |
清掃費・水道光熱費・修繕費・管理費等 |
毎月発生 |
このように、収入と支出のタイミングが異なるため、月次の資金繰りを綿密に立てることが不可欠です。収支のバランスが取れていないと、資金ショートにより返済が滞る恐れがあります。収支状況を常に把握し、問題がある場合は対応を検討する必要があります。
(3) 繰上げ返済の視野
不動産経営において、借入金の返済計画を立てる際には、繰上げ返済の視野も入れておくことが重要です。繰上げ返済とは、通常の返済額に加えて余剰資金を投入し、借入期間を短縮させる返済方法です。
例えば、借入期間20年のローンを組んだ場合、表1の通り繰上げ返済により借入期間を大幅に短縮できます。
表1. 繰上げ返済の効果(借入額1000万円、金利年2%の場合)
繰上げ返済額 | 0万円 | 5万円 | 10万円 |
借入期間 | 20年0ヶ月 | 13年11ヶ月 | 10年6ヶ月 |
繰上げ返済のメリットは、総返済額が減少するため支払利息を大幅に節約できることです。上記の例で月5万円の繰上げ返済をした場合、総返済額は約230万円も節約できます。
ただし、繰上げ返済には十分な返済余力が必要です。安定した賃貸収入が見込めない場合は、計画倒れの危険性もあります。賃貸事業の収支バランスを十分に検討した上で、柔軟に対応できるよう資金計画を立てましょう。
(4) 長期的な資金運用計画
不動産経営は長期に渡る事業です。物件の購入や運営に加え、将来的な資金需要にも目を向ける必要があります。
例えば、物件のリフォームや大規模修繕には多額の費用が必要となります。また、次の投資物件の購入資金を準備する場合もあります。このような大きな出費に備え、長期的な資金運用計画を立てましょう。
具体的には、以下のようなステップを踏むとよいでしょう。
-
将来の大規模修繕やリフォームの時期と費用を予測
-
次の投資物件の購入を想定した資金計画
-
余剰資金の運用方法の検討(預金、投資信託など)
-
節税対策の検討(損金算入、民間の節税商品活用など)
長期的な資金計画により、将来の大きな出費に備えられるだけでなく、効率的な資金運用と節税対策も可能になります。不動産経営では、このような長期視点に立った資金計画が欠かせません。
6. まとめ
不動産経営を成功させるためには、適切な資金計画が欠かせません。本記事では、不動産経営に必要な初期費用と運営費用、資金調達の方法、資金計画の立て方などについて解説してきました。
まず、不動産購入時の初期費用として、物件購入費用、仲介手数料、印紙代、登記費用、ローン関連費用、保険料、不動産取得税などがかかります。その後の運営費用では、固定資産税、都市計画税、入居者募集費用、修繕・リフォーム費用、管理費用などが必要になります。
資金調達は自己資金と借入金のバランスが重要で、借入期間や金利種別(固定/変動)も慎重に検討する必要があります。
資金計画を立てるうえでは、必要資金の正確な見積もりが何より大切です。収支バランスを綿密にシミュレーションし、将来の繰上げ返済や長期的な資金運用計画も視野に入れましょう。
以上のように、不動産経営には多額の資金が必要となるため、十分な資金計画を立てることが成功の鍵となります。