不動産賃貸経営を続けていく中で、所有不動産の入れ替えは重要な経営戦略となります。できるだけ高値で賃貸不動産を売却するための7つのポイントをご紹介します。
1.アパート・賃貸不動産の売却を検討するタイミング
築年数が浅く、資産価値が高い時期
賃貸不動産を高値で売却するための最適なタイミングは、建物の築年数が浅く資産価値が高い時期です。新しい建物ほど、将来的に発生する大規模修繕費用が少なく、テナントにも人気があります。
具体的には、以下の目安があります。
建物の用途 |
売却の適期 |
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賃貸アパート |
築10年前後 |
賃貸マンション |
築15年前後 |
ただし、建物の状態や立地条件によって、この目安は前後する場合があります。例えば、都心の人気エリアでは築年数がやや古くても資産価値が下がりにくい傾向にあります。
また、建物の耐震性能や設備の経年劣化状況によっても、売却の適期は変わってきます。大規模修繕を控えていれば、それ以前の売却が得策となる場合もあります。
賃貸不動産の売却は、建物の築年数だけでなく、様々な要素を総合的に勘案して、資産価値が最大限に高まる時期を捉える必要があります。
高稼働率で収益性が良い時期
賃貸不動産の売却タイミングとして最適なのは、高稼働率で収益性が良い時期です。空室が少なく、多くの入居者から家賃収入を得られている状態が望ましいからです。
収益性が良好な理由としては、以下が考えられます。
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立地の良さや住環境への評価が高い
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家賃水準が適正で入居需要が根強い
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建物の設備や管理体制が良好
稼働率 |
収益性の目安 |
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95%以上 |
大変良好 |
90%以上 |
良好 |
85%以上 |
普通 |
80%未満 |
注意が必要 |
このように高稼働率は収益性の高さを物語るため、査定額の算定においても大きな影響を与えます。空室が多ければ、将来的な収益見込みが立たず、査定額は下がってしまいます。最大限の売却価格を得るには、高稼働率で収益性が良い時期に売却することが賢明です。
地価上昇が見込める立地の場合
賃貸不動産の売却を検討するタイミングの1つとして、立地する地域の地価上昇が見込める場合があげられます。
地価上昇の兆候 |
説明 |
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再開発の動き |
駅前再開発や大型商業施設の新設計画など |
公共投資の予定 |
道路や公共施設の整備による利便性向上 |
人口流入の傾向 |
企業進出や新駅設置など、人口増加の要因がある |
このような地価上昇要因がある場合、今売却すれば高値で売却できる可能性があります。 ただし、実際の地価上昇までにはある程度の時間を要します。物件の状況や自身の投資戦略に合わせて、適切なタイミングで売却を検討することが重要です。
減価償却終了後の売却がお得な場合
不動産には一定の期間、毎年減価償却費を費用として計上できる制度があります。賃貸アパートの場合、この期間は木造住宅なら22年、鉄筋コンクリート造りなら47年となっています。
この減価償却が終了すると、以降は費用計上ができなくなるため、税負担が相対的に大きくなります。そのため、減価償却期間終了後は売却を検討するタイミングと言えます。
例えば木造アパートで減価償却期間22年が終了した場合、築年数は概ね20年前後になります。この時期に売却すれば、以下のメリットがあります。
メリット |
説明 |
---|---|
賃料収入益に対する税負担が減る |
減価償却費がゼロのため実質的利益が増え大きくなる税負担が無くなる |
築浅の買主需要がある |
築20年前後の物件なら買主層が広がる |
ただし、地域による違いや物件の状態によっては、減価償却期間終了前の売却がお得な場合もあります。詳細は専門家に相談するのが賢明でしょう。
2.賃貸中のアパートを売却する方法
テナント入居のまま「オーナーチェンジ」で売却
アパートやマンションなどの賃貸不動産の売却方法として、テナントが入居したままの状態で新たな所有者(オーナー)に物件を引き渡す「オーナーチェンジ売却」があります。この手法では、次のようなメリットがあります。
– 収益性を重視した査定になる
-
物件の収益性を重視した査定が期待できる
-
一時的な空室期間が発生しないため収益の穴が空かない
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新オーナーは即座に賃料収入を得られる
– テナントの引き継ぎが重要
一方、デメリットとしては、以下の点に注意が必要です。
デメリット |
対策 |
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新オーナーへの賃貸借契約の引き継ぎ作業が発生する |
テナントへの事前説明や同意取得が欠かせない |
既存テナントのクレームリスクがある |
適切な対応が必要 |
テナント入居のままの売却は、空室期間のロスを避けられる利点がある半面、テナント対応にも細心の注意を払う必要があります。売主・買主双方が手続きを適切に行うことが重要となります。
一旦退去して「空室」状態で売却
テナントに一旦退去したタイミングで、空室の状態で売却することもあります。特に、一棟貸しの不動産や区分所有(マンションの一室)などのケースは市賃貸用ではなく実需として売却が可能のためこの場合、収益不動産としてより高値で売却することが可能な場合もあります。売却時の査定は以下の点が重視されます。
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物件の築年数や状態
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立地環境や周辺の賃貸需要
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間取りや設備の質、リフォーム状況
空室での売却のメリット |
空室での売却のデメリット |
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売却価格の上乗せが期待できる |
一時的な収入減となる |
次の購入者の希望通りのリフォームが可能 |
テナント退去の手続きが必要 |
売主と買主の引き渡し調整が容易 |
空室期間の家賃ロスが発生 |
このように、空室での売却は収益性よりも物件の資産価値が重視される一方、空室リスクもあります。売却方法は物件の状況や市場の環境を踏まえ、不動産会社と検討しましょう。
3.売却前の準備作業
物件の正確な現状把握
賃貸不動産を売却する際には、建物の現状を正確に把握することが重要です。適切な査定を受けるためにも、以下の点を確認しておくことをおすすめします。
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建物の築年数と構造
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確認済証と竣工時の設計図書
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賃貸可能な専有面積と間取り
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レントロールと各入居者との賃貸借契約
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設備の種類と状態(エアコン、キッチン、浴室など)
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修繕履歴と今後の修繕必要箇所
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共用部分(エントランス、廊下、駐車場など)の状況と定期検査結果
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管理会社との管理委託契約
項目 |
確認ポイント |
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専有部分 |
間取り、設備状況、内装の汚損 |
共用部分 |
エントランス、廊下、駐車場の状況 |
修繕状況 |
過去の修繕履歴、残存する課題 |
建物全体 |
確認済証、設計図書の有無 |
建物の現状を正確に把握することで、適正な査定額を算出でき、スムーズな売却につながります。建物診断を実施するのも一つの方法です。
残ローン状況と税金の確認
賃貸不動産を売却する際は、残ローン状況と売却に伴う税金を事前に確認することが重要です。
残ローン状況については、完済までの残りの期間や毎月の返済額を正確に把握しましょう。ローン完済前の売却であれば、売却代金からローン残高を一括で返済する必要があります。
残ローン状況 |
注意点 |
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残債務期間 |
完済までの残り期間を確認 |
毎月返済額 |
売却時の精算額を把握 |
一括返済額 |
売却代金から一括返済する |
また、売却に伴う税金についても事前に確認しましょう。主な税金として、譲渡所得に対する所得税と住民税があります。譲渡所得の計算方法は複雑なため、税理士への相談をおすすめします。
売却時の税金負担を軽減するためには、適切な時期での売却も重要になります。長期保有による特別控除の適用など、税制面のメリットを最大限に活用することができます。
空室期間をできるだけ短くする
賃貸不動産を売却する際、空室期間が長引くと収益が減少し、査定額にも影響が出てしまいます。そのため、売却までの空室期間を最小限に抑えることが重要になります。
具体的には以下の対策が有効です。
対策 |
概要 |
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早期営業活動 |
売却を決めたら早期に仲介業者に依頼し、次の入居者募集を開始する。 |
インセンティブ付与 |
仲介手数料の値引きや、フリーレント期間設定など、入居者誘致の仕組みを設ける。 |
適正家賃設定 |
周辺相場を考慮し、適正な家賃水準を設定する。 |
さらに、次のような対応も検討しましょう。
-
テナントに早期の退去協力を求める
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大規模修繕は売却後に行うなど、コストを抑える
-
付帯設備の充実化により入居者アピールを行う
このように空室リスクを最小化することで、売却価格の引き下げを防ぎ、スムーズな売却が可能になります。
4.アパート売却の具体的な手順
売却業者の選定と一括査定の活用
不動産売却には様々な業者がいますが、信頼できる業者を選ぶことが重要です。以下の点を参考に複数の業者を比較検討しましょう。
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売買実績と信用力
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収益不動産への精通度合い
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対応力と営業姿勢
一般に大手の不動産会社や専門の売却仲介業者の方が、地場の小規模な業者よりも実績や情報量が多くなります。
近年では「一括査定サービス」を利用して複数社の査定を一度に受けられるサービスがあります。一括査定では無料で複数の査定額を比較できるため、最高値での売却が期待できると思われがちですが、一番高値の査定額を提案された不動産会社へ売却を依頼した結果、なかなか売れずに数か月もかけて査定額よりかなり安く売却となるケースもありますので注意しましょう。
売買契約と権利移転の手続き
売却が決まれば、買主と売主の間で売買契約を交わします。契約書には物件の概要や売買価格、引渡し時期などが明記されます。契約時には以下の書類なども準備が必要です。
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賃貸借契約書の写し
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登記事項証明書
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管理組合の規約や決算書の写し(区分所有の場合)
契約締結後は、物件の所有権移転に向けた手続きを進めます。主な手続きは以下の通りです。
手続き |
概要 |
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引渡し |
物件の鍵と設備の引き渡しを行います。 |
名義変更 |
公共料金や管理費の名義を変更します。 |
所有権移転登記 |
新所有者への所有権移転を登記します。 |
物件の引渡しと同時に売却代金の授受が行われます。売却資金は金融機関の専用口座に一旦入金されることが一般的です。これらの手続きが完了すれば、賃貸不動産の売却は完了となります。
引渡しと売却代金の受領
実際の引渡し時期は売買契約で定められた期日となります。売主とは異なる新オーナーへの引渡しとなりますので、テナントへの事前案内と理解を得ることが重要です。
引渡し当日は、立会いのもと鍵の受け渡しや設備の確認を行います。その際の状況をメモしておくと後々のトラブル防止にもなります。
引渡し時の確認ポイント |
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・鍵の確認 |
・設備の作動確認 |
・設備の経年劣化状況 |
・共用部分の確認 |
引渡し後は、売買代金の受領となります。残債務の精算や税金の計算を行い、最終的な手取り額を確認します。代金は概算と異なる場合もあるため、売買契約書に基づき精算が必要です。売却代金を受領した時点で、売却手続き完了となります。
5.売却価格を最大化するポイント
適切な時期の売却タイミングを逃さない
賃貸不動産の売却タイミングを逃さないことが最も重要です。一般的に、以下のような時期が売却に適した良いタイミングと言えます。
-
高稼働率で収益性が良い時期
空室が少なく、稼働率が高ければ収益性が良いため、査定額が上がります。 -
地価上昇が見込める立地の場合
周辺の開発計画や交通利便性向上など、今後地価が上がる可能性がある場合は早めの売却がお得です。
売却のタイミング |
売却理由 |
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稼働率が高い時 |
収益性を売りにできる |
地価上昇が見込める時 |
将来の収益性を高く評価される |
逆に、稼働率が下がってきた時や地価下落のタイミングなどでの売却は、査定額が伸びず売却に適した時期とは言い難いです。
このように、収益性や将来性が高く評価される時期を狙うことが、売却価格を最大化するポイントになります。オーナー様は常に物件の状況を把握し、タイミングを逃さないよう注意が必要です。
修繕状況や設備の経年を改善する
アパート・賃貸マンションの売却価格を最大化するためには、物件の修繕状況や設備の経年を適切に改善しておくことが重要です。
買主は、将来的なメンテナンスコストを見積もり、利回りを算出して査定額を決めます。そのため、次のような対策を講じ新規で契約するテナントの賃料を値上げすることで、高い査定評価を得られる可能性が高まります。
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外壁や屋根の塗装など、大規模修繕の実施
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空調設備や給湯器などの老朽化した設備の更新
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共用部の内装リフォームや植栽の手入れ
修繕項目 |
概算費用(一戸当たり) |
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外壁塗装 |
10万円~30万円 |
屋根塗装 |
20万円~50万円 |
エアコン更新 |
10万円~20万円 |
給湯器更新 |
10万円~20万円 |
一方、過剰な大規模修繕は投資に見合わない可能性もあります。物件の築年数や利回り率など総合的に判断して、適切な修繕計画を立案することが賢明です。
利回りと将来性を適切にアピール
不動産売買の査定では、利回りと将来性が重視されます。利回りとは年間家賃収入を取得価格で割った値で、収益性を表す指標です。一般的に利回りが高い物件ほど人気があります。
利回り |
評価 |
---|---|
10%以上 |
非常に良好 |
8~10% |
良好 |
6~8% |
平均的 |
5%未満 |
低い |
利回りが高ければ高いほど査定額は上がりますが、立地や築年数、設備の状態なども加味されます。特に立地は最重要ポイントとなります。例えば、都心の一等地であれば利回り5%前後での取引は通常ですし、駅至近で利便性が高い立地であれば、利回りが平均的でも高値がつきやすくなります。
また、将来の地価上昇が見込めるエリアでは、現在の利回りが低くても将来性を適切にアピールすれば高値で売却できる可能性があります。立地の良し悪し、再開発の可能性、周辺環境の変化など、様々な観点から将来性を分析し、しっかりと買主側に伝えることが重要です。
6.売却後の対応
売却による税金の計算と申告
不動産売却時には、所得税や住民税の対象となる「譲渡所得」が発生します。譲渡所得は以下の計算式で求められます。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用
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譲渡価額…売却価格
-
取得費…購入価格や付帯費用の合計
-
譲渡費用…不動産売買の手数料や広告費など
譲渡所得には税率を乗じて税額が決まります。
課税対象金額 |
税率 |
---|---|
100万円以下 |
15% |
100万円超~1,000万円 |
30% |
1,000万円超 |
39% |
確定申告期限は原則として翌年の3月15日までですので、金額を計算して期限内に申告する必要があります。
売却資金の有効活用
アパートを売却したら、得られた売却資金をどのように活用するかは重要な検討課題です。節税対策や新たな投資など、複数の選択肢があります。
まずは売却による譲渡所得に対する税金負担を軽減する必要があります。以下のような方法が有効でしょう。
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売却した不動産と同等の物件を1年以内に買い換える「1年以内の特例」
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長期保有の特例により譲渡所得から控除
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居住用財産の買換え特例 など
ただし、一定の条件をクリアしないと特例は適用されません。詳細は税理士などの専門家に相談しましょう。
次に、売却資金を新たな投資に回すことも検討できます。例えば以下のような選択肢があります。
投資先 |
メリット |
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別の不動産物件 |
資産の分散が可能 |
株式・投資信託など |
分散投資で安全性が高まる |
事業投資 |
収益機会の拡大や節税が期待できる |
投資先の選定では、リスクとリターンのバランスを見極める必要があります。無理のない範囲で検討しましょう。
以上のように、アパート売却後の資金活用には様々な選択肢があります。状況に合わせて最適な方法を見つける必要があります。
7.不動産会社の選び方
賃貸不動産の売却価格の最大化、一番のポイントはやはり不動産会社の選択です。
複数社を比較検討する
賃貸不動産の売却を検討する際は、複数の不動産会社を比較検討することが重要です。
各社の実績や強み、サービス内容などを確認し、自分の物件に最適な会社を選ぶことをおすすめします。特に以下の5点について、比較検討するとよいでしょう。
比較ポイント |
確認事項 |
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実績 |
賃貸不動産での売買実績件数や取り扱い物件の棟数 |
査定力 |
適正な査定価格を提示できるか |
営業力 |
効果的な売却プロモーションができるか |
サポート体制 |
きめ細やかなフォローができるか |
複数社の査定価格や提案内容を比較し、各社の特色や相場観を知りましょう。但し、査定価格や仲介手数料の安さだけで選ぶの危険ですのでやめましょう。
信頼できる担当者で選ぶ
複数社を比較する中で、最終的にご自身の性格や目標に最も合致する担当者で不動産会社を選びましょう。いくら大企業であっても、不動産歴数十年の地域密着会社であっても、担当者によって対応はまちまちです。相性の良くない担当者だと、無事に売却終了まで不安に感じたり不満を持つこともよくあります。誠実に正確に柔軟に対応できる担当者を選ぶことで、高値での売却が期待できます。