マスターリースやサブリースは、オーナーとサブリース会社の双方にメリットをもたらす契約形態です。オーナーは安定した賃料収入と管理業務の軽減、サブリース会社は収益事業の多角化と物件の長期確保を期待できます。しかし一方で、修繕費負担や長期拘束、空室リスクといったデメリットも存在します。そのため、契約内容やサブリース会社の信用力を慎重に確認し、長期的な収支シミュレーションを行うことが重要となります。
1.マスターリース・サブリースとは
まずは、マスターリースとサブリースの定義、そして双方の関係性についてみていきましょう。
(1)マスターリース契約の定義
マスターリース契約とは、オーナー(賃貸人)とサブリース会社(賃借人)の間で結ばれる契約です。この契約により、サブリース会社がオーナーから物件の一括借り上げを行い、その物件を実際の入居者(賃借人)に転貸する形態となります。
つまり、マスターリース契約では以下の2つの賃貸借関係が発生します。
賃貸借関係 |
賃貸人 |
賃借人 |
---|---|---|
第1次賃貸借 |
オーナー |
サブリース会社 |
第2次賃貸借 |
サブリース会社 |
入居者(テナント) |
サブリース会社は、第1次賃貸借で支払うオーナーへの賃料を、第2次賃貸借で受け取る入居者からの賃料収入で賄うことになります。この仕組みにより、オーナーと入居者との間にサブリース会社が入ることで、双方のリスクを分散・ヘッジできるというメリットがあります。
(2)サブリース契約の定義
サブリース契約とは、サブリース会社が賃借した物件の全部または一部を、別の賃借人(テナント)に転貸する契約のことです。つまり、サブリース会社は建物オーナーから賃借した上で、テナントに対して転貸する立場になります。
このサブリース契約には主に2つの形態があります。
形態 |
説明 |
---|---|
一括サブリース |
サブリース会社が建物全体を賃借した上で、その一部または全部をテナントに転貸する形式です。 |
個別サブリース |
サブリース会社が建物の一部(一室など)を賃借し、その部分をテナントに転貸する形式です。 |
サブリース契約では、サブリース会社とテナントの間で、賃料、契約期間、管理規定などが定められます。サブリース会社は、オーナーに支払う賃料と、テナントから受け取る賃料の差額が収益となります。
(3)マスターリースとサブリースの関係性
マスターリース契約とサブリース契約は、表裏一体の関係にあります。
|
マスターリース契約 |
サブリース契約 |
---|---|---|
当事者 |
オーナー ⇄ サブリース会社 |
サブリース会社 ⇄ 入居者(テナント) |
内容 |
サブリース会社が物件を一括借上げ |
サブリース会社が入居者に転貸 |
つまり、サブリース会社がオーナーからマスターリース契約で物件を一括借り上げた上で、その物件をサブリース契約によって入居者(テナント)に転貸しているのです。
サブリース会社は、マスターリース料金とサブリース料金の差額分を自らの収益とすることができます。一方で、空室リスクもマスターリース会社が背負うことになります。
このように、マスターリースとサブリースは表裏一体の関係にあり、サブリース会社が仲介者としての役割を担っているのが特徴です。
2.マスターリースの仕組みと種類
次にマスターリースの種類について詳しく見ていきましょう。
(1)賃料保証型マスターリース
賃料保証型マスターリースとは、サブリース会社がオーナーに対して一定期間の賃料収入を保証する形態のマスターリース契約です。サブリース会社は、オーナーから物件の賃借権を取得し、その物件をサブリースによってエンドユーザーに転貸します。
賃料保証型の流れ |
---|
①オーナーとサブリース会社がマスターリース契約を締結 |
②サブリース会社がオーナーに対して一定の賃料を保証 |
③サブリース会社がテナント募集し、サブリース契約を結ぶ |
④テナントからの賃料収入でオーナーへの賃料を払う |
このように、サブリース会社がオーナーに対して安定した賃料収入を保証することで、オーナーの収入リスクを軽減できます。一方で、サブリース会社は空室リスクを抱えることになります。賃料保証型はオーナーに有利な一方で、不動産会社には一定のリスクが伴います。
ただし、サブリース会社が保証賃料より高い賃料でサブリースできた場合には、その差額が大きな収益となります。
(2)賃料非保証型マスターリース
賃料非保証型マスターリースは、サブリース会社がオーナーに対して賃料の保証をしない形態のマスターリース契約です。オーナーはサブリース会社から賃料を受け取りますが、その額はサブリースをして得た家賃収入に応じて変動します。サブリース会社の収支次第で、オーナーの賃料収入が変動する仕組みになっています。
(3)その他のマスターリース形態
マスターリースにはさらに、オーナーが定期的に一定額を受け取る固定賃料型や、オーナーがサブリース会社とリスクと収益を分け合う利益分配型など、さまざまな契約形態が存在します。これらの形態では、オーナーとサブリース会社がより密接に連携し、リスクとリターンを共有することになります。このように、マスターリースにはオーナーとサブリース会社の双方の事情に合わせて、柔軟な契約設計が可能となっています。
3.マスターリース・サブリースのメリット
ではオーナー側、サブリース会社側両方のメリットをみていきます。
(1)オーナー側のメリット
– 安定した賃料収入確保
マスターリース契約のメリットの1つに、オーナー側が安定した賃料収入を確保できることが挙げられます。マスターリース会社は、物件全体を一括借り上げるため、オーナーに対して空室リスクを負うことなく、契約期間中は一定の家賃収入を約束することができます。
例えば、マンション1棟の賃料収入が以下のようになる場合を考えましょう。
部屋番号 |
賃料(月額) |
---|---|
101 |
10万円 |
102 |
空室 |
103 |
8万円 |
この場合、オーナーは以下のように不安定な収入しか得られません。
-
101号室:10万円
-
102号室:0円
-
103号室:8万円
-
合計:18万円
しかし、マスターリース契約を結べば、マスターリース会社から一定の家賃収入(例:25万円/月)を約束されるため、オーナーは安定した賃料収入を得ることができるのです。
– 管理業務の軽減
マスターリース契約を結ぶことで、オーナーは物件の管理業務を大幅に軽減することができます。具体的には、以下のような業務が不要になります。
管理業務の内容 |
通常 |
マスターリースの場合 |
---|---|---|
入居者の募集・審査 |
オーナー |
サブリース会社 |
入居者との契約 |
オーナー |
サブリース会社 |
家賃の収納 |
オーナー |
サブリース会社 |
退去時の原状回復工事 |
オーナー |
サブリース会社 |
このように、マスターリース契約を結ぶことで、入居者対応や賃貸管理に係る煩雑な業務をすべて不動産会社に委託できます。特に個人のオーナーにとっては、入居者の入れ替わりに伴う事務的な手続きが大きな負担となりますが、この点でも大幅な軽減が期待できます。
一方で、マスターリース会社には賃貸管理をはじめとするPM業務が生じるため、この部分の業務が増えることになります。しかし、サブリース会社には賃貸管理のノウハウがあり、効率的な業務運営が可能となっています。
(2)サブリース会社側のメリット
– 収益事業の多角化
サブリース会社にとって、マスターリース契約を締結することは、収益事業の多角化につながります。
サブリース会社は、不動産賃貸業のほかにも様々な事業を展開していることが多く、マスターリース事業を加えることで、収益源を分散できるのです。
事業の種類 |
収益性 |
---|---|
不動産賃貸業 |
◎ |
マスターリース事業 |
◎ |
不動産仲介業 |
△ |
リフォーム業 |
△ |
このように、それぞれの事業の収益性は異なります。マスターリース事業を加えることで、収益の安定性が高まるのです。
また、マスターリース契約の期間は長期に及ぶことが多いため、長期的な収入が見込めます。これにより、サブリース会社は経営の安定化を図ることができるでしょう。
– 物件の長期確保
サブリース会社にとって、マスターリース契約を結ぶメリットの1つが、物件を長期的に確保できる点にあります。
一般的な賃貸借契約の場合、契約期間は2~3年が一般的です。この短期間での契約更新リスクに加え、オーナー側の意向で契約が打ち切られるリスクもあります。
通常賃貸借契約 |
マスターリース契約 |
---|---|
契約期間2~3年が一般的 |
契約期間5年〜10年が一般的 |
契約更新リスク |
長期契約で物件確保 |
オーナー都合で契約解除の可能性 |
オーナー都合での解除は困難 |
このように、マスターリース契約では長期にわたり物件の賃借権を確保できるため、サブリース会社はテナントへの賃貸計画を立てやすくなります。また、長期的な経営計画の立案や、物件のバリューアップ投資など、様々な経営判断が可能になるのです。
4.マスターリース・サブリースのデメリット
では、オーナー側、サブリース会社側のデメリットにはどんなものがあるでしょうか。
(1)オーナー側のデメリット
– 修繕費等の費用負担
マスターリース契約においては、オーナー側がサブリース会社に一括して物件を賃貸するため、通常の賃貸借契約とは異なり、修繕費用の負担が発生する可能性があります(マスターリース契約の内容による)。
サブリース会社は、サブリース先のテナントから受け取る家賃収入から修繕費用を賄う必要があります。そのため、大規模修繕が発生した場合、サブリース会社の収支が悪化し、オーナーへの賃料支払いが滞る恐れがあります。
このリスクを回避するため、一般的にはマスターリース契約書に以下のような条項が設けられます。
-
オーナー負担の修繕費用の上限設定
-
マスターリース会社による修繕実施の可否判断
オーナー負担上限額 |
サブリース会社による判断 |
---|---|
100万円 |
100万円以下の修繕は会社が実施 |
200万円 |
200万円以下の修繕は会社が実施 |
このように、オーナー側の修繕費用負担を一定額に抑えつつ、サブリース会社と協議の上で修繕計画を立てることが重要です。修繕費用の適切な負担設定により、長期的な収支の安定化を図ることができます。
– 長期契約による拘束力
マスターリース契約は通常5年から10年程度の長期契約が一般的です。そのため、契約期間中は建物オーナーとしての自由度が制限されるデメリットがあります。
例えば、次のような場合には制約を受ける可能性があります。
-
賃貸条件の変更
-
大規模修繕や建て替え
マスターリース会社の事情で契約解除されることもあり、その場合には転借人の対応や新たな契約先探しなど、オーナーとして多大な手間がかかります。
また、長期契約であるため、マスターリース会社の経営状況の変化によってはリスクが高まります。事前に会社の信用力や実績を確認する必要があります。
契約期間中の賃料水準の変動リスクも無視できません。賃料が下がる局面では、マスターリース会社の収支が悪化する可能性があり、経営破綻に繋がるリスクもあるのです。
– オーナーからの解約は簡単にできない
サブリース会社はあくまでもその物件を借りている「借主」の立場です。
サブリース契約は「借地借家法」の適用内にある契約となっており、借地借家法は貸主よりも借主が手厚く守られる内容となっています。サブリースの場合、この借主には入居者ではなく、転貸借をしている不動産会社が該当します。
そのため、オーナーからの解約は簡単にはできません。
こちらについては、下記の記事で詳しく解説していますのでぜひご一読ください。
(2)不動産会社側のデメリット
– 空室リスクと収支悪化の可能性
サブリース会社にとって最大のリスクは、テナントが退去した際に新規テナントの確保が遅れ、空室期間が長期化することです。空室期間が長引けば、サブリース会社の収入が途絶えてしまいます。
さらに、新規テナントの確保のために家賃を大幅に値下げせざるを得なくなれば、収支が悪化する可能性もあります。
項目 |
内容 |
---|---|
空室リスク |
テナントの退去時に新規テナントが見つからず、長期の空室状態が続く |
収支悪化リスク |
新規テナント確保のため家賃を大幅値下げせざるを得なくなり、収支が悪化する |
このように、マスターリースは安定収入が見込めるメリットがある一方で、サブリース会社にとっては空室リスクと収支悪化のリスクが伴います。そのため、サブリース会社は常に空室対策と適正な家賃設定を心がける必要があります。
– テナント管理の煩雑さ
サブリース会社は、入居者の募集から退去までの一連の業務を自ら行う必要があります。特に、テナントの入退去が頻繁に起こる場合、その度に以下のような業務が発生します。
-
募集広告の作成・掲載
-
内覧の対応
-
契約手続き
-
入居時の対応や内装工事確認
-
賃料の徴収
-
退去時の室内確認と原状回復の確認
-
敷金の精算
このように、一つの物件でも入居者の入れ替わりに伴い、煩雑な業務が常に発生します。テナントの数が多ければ多いほど、その業務量は増大していきます。
5.マスターリース契約における留意点
(1)契約内容の確認
マスターリース契約の内容を十分に確認することが重要です。特に、オーナーの立場からは、賃料保証の有無や修繕費の負担割合、解約条件などを慎重に確認する必要があります。賃料保証がない場合は、サブリース会社の業績変動に伴う家賃変動リスクを認識しておく必要があります。また、長期契約であるため、将来の状況変化にも柔軟に対応できるような契約内容かどうかを検討することも重要です。
(2)サブリース会社の信用力・実績の確認
サブリース会社の信用力と実績を十分に確認することは非常に重要です。オーナーは、サブリース会社の財務状況、事業実績、賃料支払い履歴、テナント管理の実績など、様々な観点から慎重に調査する必要があります。信頼できるサブリース会社を見極めることで、リスクを最小限に抑えることができます。また、長期的な視点から、サブリース会社の事業継続性や将来性についても見極める必要があります。
(3)長期的な収支シミュレーション
長期的な収支シミュレーションを行うことで、マスターリース契約の妥当性を検証することができます。オーナーは、サブリース会社からの賃料収入と自身の借入返済額や税金の支払額、修繕費用などを見積もり、長期的な観点から収支を検討する必要があります。また、サブリース会社の業績変動による賃料変動リスクや、空室リスクなども見越した上で、収支を慎重に分析する必要があります。この収支シミュレーションを通じて、マスターリース契約が自身の投資計画に合致しているかどうかを見極めることができます。
6.まとめ
マスターリース・サブリースは、オーナーとサブリース会社の双方にメリットをもたらす契約形態です。
オーナー側のメリット |
サブリース会社側のメリット |
---|---|
・安定した賃料収入確保 |
・収益事業の多角化 |
・管理業務の軽減 |
・物件の長期確保 |
一方で、デメリットも存在します。オーナーは修繕費用の負担や長期契約による拘束力、サブリース会社は空室リスクと収支悪化の可能性、テナント管理の煩雑さを抱えます。
そのため、契約内容とサブリース会社の信用力・実績を確認し、長期的な収支シミュレーションを行うことが重要です。 マスターリース・サブリースを賢明に活用することで、不動産投資におけるリスクヘッジが可能になるのです。