不動産賃貸経営の賢人は知っている キャッシュフロー計算のコツ

物件購入

不動産賃貸経営においてキャッシュフロー(現金の流れ)を把握することは非常に重要です。キャッシュフローの計算方法と改善のポイントをみていきましょう。

1.不動産賃貸経営におけるキャッシュフローの重要性

(1)手元に残る現金を把握できる

不動産賃貸経営においてキャッシュフロー計算を行うことで、実際に手元に残る現金がどの程度かを把握することができます。キャッシュフローとは以下の計算式で求められます。

キャッシュフロー = 賃貸収入 - (経費+ローン返済額)

例えば、下記のような場合を想定してみましょう。

項目

金額

賃貸収入

100万円

経費

30万円

ローン返済額

40万円

この場合のキャッシュフローは以下の通りです。

キャッシュフロー = 100万円 - (30万円 + 40万円) = 30万円

つまり、実際に手元に残る現金が年間30万円であることが分かります。このように、キャッシュフロー計算を行うことで手元資金を正確に把握でき、投資判断の重要な材料となるのです。

(2)投資拡大や設備投資に活用できる

不動産賃貸経営において、キャッシュフローを適切に管理することは非常に重要です。なぜなら、キャッシュフローは投資拡大や設備投資のための原資となるからです。

活用例

説明

物件の追加購入

新たな不動産物件を購入し、収益源を増やすことができます。

リフォーム工事

部屋の内外装をリフォームし、家賃値上げにつなげられます。

設備の更新

老朽化した設備を新しいものに交換し、コストを削減できます。

このように、十分なキャッシュフローがあれば、規模の拡大や物件の質の向上に投資できます。そのため、賃貸経営では常にキャッシュフローを意識し、運用していく必要があります。

(3)リスクへの備えとなる

不動産賃貸経営においては、様々なリスクが潜んでいます。入居者の転勤や解約、建物の老朽化や設備の故障、地域の家賃水準の変動など、収支に影響を与える事象が起こりうるのです。

しかし、キャッシュフローを適切に計算し、一定額を手元に残せていれば、そうしたリスクにも対応できます。例えば、以下のようなケースが考えられます。

  • 空室期間が発生した場合の手持ち資金

  • 設備の修理や部品交換費用の捻出

  • 地域の家賃下落に対する一時的な賃料値下げ余力

リスク例

キャッシュフローの活用

空室

空室期間の家賃を補填

設備故障

修理費用の支払い資金

賃料下落

賃料値下げ余力の確保

このように、賃貸経営ではキャッシュフローの計算と手元残高の確保が、リスクヘッジの観点から重要なのです。

 

2.キャッシュフローの計算方法

(1)物件の入居率や家賃収入を設定

不動産賃貸経営におけるキャッシュフローを正確に算出するためには、物件の入居率と家賃収入を適切に設定する必要があります。

まず、入居率ですが、100%の入居を前提とするのは危険です。通常は90~95%程度が妥当な設定値とされています。長期修繕や一時的な空室リスクを考慮する必要があるためです。

入居率

留意点

100%

現実的ではない

95%

一般的な設定値

90%

控えめに設定した方が無難

次に家賃収入ですが、周辺の相場を参考にしつつ、立地条件や間取り、設備水準などを総合的に勘案して設定します。景気動向や地域の人口動態にも注意を払う必要があります。

このように、適切な入居率と家賃収入を設定することで、キャッシュフローの精度を高めることができます。現実的な数値設定が賢明な経営判断につながります。

(2)維持管理費用などの経費を算出

キャッシュフローを算出する際、(1)の家賃収入に対して、様々な経費を差し引く必要があります。主な経費項目は以下の通りです。

  • 修繕費

  • 公租公課(固定資産税など)

  • 管理費(委託管理料、清掃代、保守管理費など))

  • ローン返済(元利払い)

  • 火災保険料

  • 水道光熱費(共益費含む)

  • 手数料(不動産仲介手数料など)

    このように、経費項目は多岐にわたります。正確な収支を算出するには、漏れなく全ての経費を洗い出す必要があります。経費の見落としがあれば、キャッシュフローを過大に見積もってしまう恐れがあるためです。

(3)収支計算式に当てはめる

物件の家賃収入と経費をそれぞれ算出したら、次はその数値を収支計算式に当てはめます。収支計算式は以下の通りです。

キャッシュフロー = (家賃収入 - 経費) - 借入金の返済額

例えば、以下のような数値だったとします。

  • 家賃収入: 120万円

  • 経費: 50万円

  • 借入金の返済額: 60万円

この場合のキャッシュフローは、

120万円 - 50万円 = 70万円 70万円 - 60万円 = 10万円

となり、年間で10万円の手元残高があることになります。

また、借入金がない場合は、収支計算式は以下の簡単な式で計算できます。

キャッシュフロー = 家賃収入 - 経費

このように、適切な数値を収支計算式に当てはめることで、不動産賃貸経営におけるキャッシュフローを正確に算出することができます。

 

3.キャッシュフロー改善のポイント

(1)ローン返済期間を長くする

不動産賃貸経営において、ローン返済期間を長くすることはキャッシュフロー改善のポイントの1つです。

返済期間を長くすることで、月々の返済額が抑えられるためです。例えば、

借入金額

返済期間

金利

月々の返済額

3,000万円

20年

1.0%

約15万円

3,000万円

35年

1.0%

約10万円

このように、返済期間を20年から35年に長くすると、月々の返済額が約5万円抑えられます。その分、キャッシュフローの改善につながります。

ただし、長期になればなるほど総返済額は増えるデメリットもあります。投資対効果を見極めつつ、ローン返済期間を決める必要があります。物件の賃貸収入や、自身の年収など総合的に判断しましょう。

(2)自己資金比率を高める

自己資金比率を高めると、キャッシュフローが改善されます。

自己資金比率とは、物件購入費用に占める自己資金の割合のことです。つまり、借入金に頼らずに自己資金でまかなえる金額が多いほど、自己資金比率が高くなります。

自己資金比率

借入金の割合

10%

90%

20%

80%

30%

70%

自己資金比率が高いほど、借入金の返済負担が軽減されるため、キャッシュフローが改善されます。一方で、自己資金が多額になるため、投資判断が慎重になる必要があります。

適切な自己資金比率は物件の条件によって異なりますが、自己資金を多く確保できれば借入金の返済負担が軽くなり、キャッシュフローの改善につながります。

(3)低金利のローンを選ぶ

賃貸経営におけるキャッシュフローの改善には、借入金利を低く抑えることが重要なポイントです。金利が低ければ毎月の支払い負担が軽減され、手元に残るキャッシュフローが増えるためです。

例えば、借入額1億円、返済期間30年の場合、金利の違いによるキャッシュフロー増減は下表のようになります。

金利

月次返済額

年間支払総額

年間キャッシュフロー増減額

2.0%

415,599円

4,987,188円

1.5%

395,101円

4,741,212円

+245,976円

1.0%

374,515円

4,494,180円

+493,008円

金利が0.5%下がるごとに、年間のキャッシュフローが約25万円増加することがわかります。物件の収支状況によっては、この金利差がキャッシュフロー改善の大きな鍵となるでしょう。

ただし、金利が低い分、借入期間が長くなったり、借入額が少なくなる可能性もあります。そのため、長期的な収支計画を立て、賃料収入の見通しと合わせて、最適な条件のローンを選ぶ必要があります。

(4)家賃収入アップの工夫

不動産賃貸経営におけるキャッシュフローを改善するには、家賃収入を上げることが有効な手段の一つです。以下のような工夫が考えられます。

  • 物件の改修・リフォーム 壁紙の張り替えや設備の入れ替えなどを行い、物件の質を高めることで家賃値上げの余地が生まれます。

  • 共用部分の改善
    エントランスや階段の手すりなど共用部分を美しく保つことで、物件の価値を高められます。

  • 立地条件を活かす 交通の利便性や商業施設の近接性など、立地条件の良さを賃貸広告に打ち出すことで、高家賃設定が可能になります。

  • 間取りを見直す 間取りを変更したり、トイレバスをセパレートにするリフォームを行えば、家賃アップにつながります。

  • サブスクリプションの付加 インターネットやケーブルTVなどのサブスクリプションサービスを付加することで、家賃を割高に設定できるでしょう。

このように、物件そのものの価値を高めたり、付加価値をつけたりすることで、キャッシュフローの改善を図ることができます。

 

4.利回りやキャピタルゲインとの違い

(1)利回りは収益性を示す指標

不動産賃貸経営において、物件の収益性を把握する上で重要な指標が「利回り」です。利回りとは、投資額に対する年間収益の割合を示すものです。

利回りは以下の式で計算します。

利回り(%) = (年間収入 / 物件購入総額) × 100

例えば、年間の家賃収入が100万円、経費が50万円だった場合の年間純収入は50万円です。物件購入総額が1,000万円だとすると、利回りは以下のように計算されます。

表面利回り = (100万円 / 1,000万円) × 100 = 10%

実質利回り = (50万円 / 1,000万円) × 100 = 5%

利回りが高ければ高いほど、その物件は収益性が高いと判断できます。一般的に利回り5%以上が経済的な目安とされています。ただし、利回りは期間損益に過ぎず、キャッシュフローとは異なることに注意が必要です。

表面利回りと実質利回りの違いはこちら↓

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(2)キャピタルゲインは売却益

キャピタルゲインとは、不動産を売却したときに得られる売却益のことを指します。具体的には、以下の計算式で算出されます。

キャピタルゲイン = 売却価格 - (取得価格 + 取得経費)

例えば、取得価格が3,000万円、取得経費が100万円の物件を4,000万円で売却した場合、キャピタルゲインは以下のように計算されます。

キャピタルゲイン = 4,000万円 - (3,000万円 + 100万円) = 900万円

つまり、この物件の売却によって900万円の売却益(キャピタルゲイン)を得たことになります。

ただし、キャピタルゲインが得られるのは物件売却時のみです。物件を所有し続ける限り、キャピタルゲインは計上されません。実際の手元資金となるのは、賃貸収入からローン返済や経費を差し引いた「キャッシュフロー」だけです。

(3)キャッシュフローは実質的な手元残高

キャッシュフローとは、賃貸経営で実際に手元に残る現金の流れを指します。利回りやキャピタルゲインといった指標とは異なり、キャッシュフローは賃貸経営から生み出される実質的な現金収支を示しています。

例えば、以下のようなケースがあります。

項目

金額

家賃収入

100万円

経費支出

70万円

ローン返済

20万円

キャッシュフロー

10万円

この例では、年間の家賃収入が100万円あり、経費支出が70万円、ローン返済が20万円かかっています。結果としてキャッシュフローは10万円の現金が手元に残ることになります。

つまり、キャッシュフローは経営の実質的な現金残高を示す重要な指標なのです。利回りなどの収益性指標も大切ですが、実際に手元に残る現金がなければ経営は成り立ちません。賃貸経営においてキャッシュフローを正しく計算し、適切に管理することが不可欠なのです。

 

5.マイナスキャッシュフローへの対処

(1)原因を特定し是正する

マイナスキャッシュフローが発生した場合は、まず原因を特定することが重要です。主な原因と対策は以下の通りです。

原因

対策

入居率の低下

集客活動の強化、適正家賃の設定

高額な修繕費

計画的な修繕、優先順位の設定

過剰な経費支出

経費の見直し、無駄の削減

ローン返済負担

ローンの借り換え検討

原因が特定できたら、迅速に対策を講じることが大切です。入居率が低ければ、広告宣伝費を増やすなどして集客活動を強化しましょう。修繕費が高額な場合は、計画的な修繕を行い、優先順位を付けて支出を抑えます。

また、経費の無駄を省くことで、キャッシュフロー改善につながります。光熱費の節約や管理コストの見直しなどを行いましょう。さらに、ローン返済の負担が大きい場合は、金利の低いローンへの借り換えを検討するのも一案です。

このように、原因を特定し、適切な対策を講じることで、マイナスキャッシュフローからの脱却が可能になります。

(2)一時的な資金調達を検討

不動産賃貸経営においてキャッシュフローがマイナスになることがあります。その際は一時的な資金調達を検討する必要があります。主な資金調達方法は以下の通りです。

  • 融資の借り入れ

    • 金融機関からの融資を受ける

    • ただし返済計画が重要

  • 投資家からの資金調達

    • 第三者から出資を募る

    • 配当などでリターンを提供する必要がある

  • ファミリーローン

    • 親族や知人から借り入れる

    • 金利負担が軽減される可能性

調達方法

メリット

デメリット

融資の借り入れ

金利が比較的安い

返済義務が発生する

投資家からの調達

負債は増えない

配当が必要になる

ファミリーローン

金利が安い

人間関係にストレスがかかる恐れ

資金調達方法はそれぞれメリット・デメリットがあるため、自身の状況に合わせて賢明に選択することが肝心です。短期的な資金不足であれば、返済計画を立てた上で融資を活用するのが一般的でしょう。

(3)最悪の場合は物件売却も

長期間にわたって、キャッシュフローがマイナスの状態が続く場合は、最終的には物件を売却することを検討する必要があります。

物件売却の判断基準としては、以下の点が重要です。

  • 将来的にキャッシュフロー改善の見込みがないか

  • 修繕費や資金繰りへの影響が大きい

  • 資産全体への影響が大きい

項目

内容

将来見込み

経済状況や地域の将来性など

修繕費影響

老朽化に伴う大規模修繕の必要性

資産影響

他の物件運営への影響度

上記のような観点から総合的に判断し、物件売却が最善と判断された場合は早期の売却を検討します。売却資金は新規物件の購入や、他の投資に回すことができます。マイナスのキャッシュフローを長期化させないためにも、物件売却は重要な選択肢の一つとなります。

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6.まとめ

不動産賃貸経営においてキャッシュフローの計算と管理は非常に重要です。きちんと計算しないと、実際に手元に残る現金を把握できず、投資判断を誤る恐れがあります。

キャッシュフローは以下の3ステップで計算できます。

  1. 物件の入居率や家賃収入を設定する

  2. 維持管理費用などの経費を算出する

  3. 収支計算式に当てはめる

収入

支出

家賃収入

借入金の返済

駐車場収入

修繕費

管理費

公租公課

このように収支を整理し、差し引き残高がキャッシュフローとなります。

キャッシュフローが改善できれば、さらなる投資拡大につなげられます。ローン条件の見直しや、家賃収入アップの工夫などが有効な手段です。一方でマイナスキャッシュフローが続く場合は、原因を特定し是正する必要があります。

キャッシュフローを適切に管理することで、不動産賃貸経営をより有利に進められるでしょう。

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