1.はじめに
賃貸経営においては、管理会社の選定が大きな収益要因になります。入居者募集から入居後のアフターサービスまで、管理会社の能力次第で経営成績が大きく左右されるのです。
しかし、長年つき合ってきた管理会社に満足がいかなくなることもあります。例えば、以下のような課題が生じた場合です。
-
入居者募集の広告宣伝が不十分で、長期空室が発生している
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家賃債務保証の審査が甘く、トラブル入居者が後を絶たない
-
修繕対応が遅く、入居者からのクレームが多い
このように、管理会社に課題があれば経営に支障をきたしかねません。賃貸経営者は常に冷静な目線で管理会社の実力を見極め、必要に応じて変更を検討する必要があります。
2.管理会社を変更する主な理由
(1)集客力や入居率が低下している
管理会社を変更する大きな理由の一つが、集客力の低下により入居率が落ちていることです。管理会社の集客力が落ちると、空室が増え家賃収入が減少します。
入居率の低下 |
影響 |
---|---|
空室増加 |
家賃収入の減少 |
修繕費の増加 |
空室期間中の光熱費負担 |
このように、入居率の低下は直接的に収支に影響を及ぼします。入居率が一定水準を下回ると、経営が赤字に陥る可能性もあります。
入居率の低下には以下の原因が考えられます。
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広告宣伝力の低下
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営業力の低下
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賃料設定ミス
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周辺の新築ビルとの競合
管理会社の集客力が落ちている場合は、早めに変更を検討する必要があります。入居率が一定水準を下回り続けると、建物の資産価値が下がるリスクもあるためです。
(2)費用対効果が悪く、経営が赤字化している
賃貸経営において、管理会社に支払う手数料が賃料収入に対して高すぎる場合、費用対効果が悪くなり経営が赤字になる恐れがあります。その要因としては以下が考えられます。
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集客力が低下し、空室期間が長引いている
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家賃の適正水準が維持できていない
-
管理コストが高すぎる
このような場合、管理会社を変更することで収支を改善できる可能性があります。収支状況を表にまとめると以下のようになります。
項目 |
現状 |
変更後(想定) |
---|---|---|
家賃収入 |
600万円 |
600万円 |
空室損失 |
120万円 |
60万円 |
修繕費 |
100万円 |
80万円 |
管理費 |
200万円 |
150万円 |
収支 |
-220万円 |
+310万円 |
このように、空室率の改善や管理コストの削減により、収支が大幅に改善する可能性があります。経営が赤字で持続可能でない場合は、早期の管理会社変更を検討するべきでしょう。
(3)修繕費用や管理コストが高すぎる
管理会社によっては、修繕費用や管理コストが高額となり、経営を圧迫する場合があります。その理由としては、以下のようなケースが考えられます。
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管理会社側のコスト意識が低く、無駄な支出が多い
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入居者への対応が適切でなく、トラブルが多発し修繕費が嵩む
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専門性が低く、効率的な修繕や予防保全ができていない
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管理会社の手数料率が高すぎる
項目 |
平均的な相場 |
---|---|
修繕費 |
年間家賃の5~10%程度 |
管理コスト |
家賃の3~5%程度 |
表のように、修繕費は年間家賃の5~10%程度が平均的な相場とされています。これを大きく上回る場合は、管理会社を変更する必要があるでしょう。
コストを抑えるためには、修繕業者の選定や見積り徴収を適切に行う管理会社に変更することが重要です。また、コストパフォーマンスの高い管理会社を選ぶことで経営の効率化が期待できます。
3.管理会社を変更するベストなタイミング
(1)契約期間満了時
賃貸経営における管理会社との契約期間は通常2年から5年程度です。この期間満了時が最も管理会社を変更しやすいタイミングとなります。
契約期間が満了する前に、現在の管理会社のサービス内容や費用対効果を総点検します。もし以下のような課題があれば、管理会社変更を検討するべきでしょう。
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集客力の低下で入居率が低迷している
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管理コストが高すぎて赤字経営が続いている
-
修繕対応が遅く、入居者の不満が多い
一方、管理会社のサービスに満足できている場合は、契約を継続するのが賢明です。
管理会社変更の判断基準 |
変更した方が良い |
継続した方が良い |
---|---|---|
集客力・入居率 |
低下傾向 |
安定している |
管理コスト |
高すぎる |
適正水準 |
修繕対応 |
遅い・不満多い |
迅速・丁寧 |
契約満了時は上記のようにメリット・デメリットを冷静に判断し、管理会社変更の是非を決めるべきタイミングです。
(2)大規模修繕や建て替え時
大規模修繕や建て替えを控えている場合は、管理会社を変更するタイミングとなります。大規模修繕では、修繕計画の立案から工事の実施、入居者対応まで管理会社の役割が重要になります。
一方で建て替え時は、現在の賃貸経営から完全に卒業することになるため、管理会社との関係を清算する必要があります。こうした大きな節目では、これまでの管理会社との付き合いを総括し、次のステージに移行するための新たな管理会社を選ぶべきでしょう。
大規模修繕時のポイント |
建て替え時のポイント |
---|---|
・修繕計画の立案能力 |
・残余物件の一括管理 |
・工事発注・監理能力 |
・入居者対応と明渡し |
・入居者対応と説明力 |
・売却または建替業者との連携 |
大規模修繕や建て替えは、賃貸経営における大きな節目です。こうしたタイミングでは柔軟に管理会社を変更し、次のステージに適した会社を選ぶことが賢明です。
(3)売却を検討している時
物件の売却を検討している場合、管理会社を変更するのがベストなタイミングといえます。売却活動を円滑に進めるためには、次のような対応が重要です。
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物件の資料作成や内覧対応など、売却に特化した業務に専念できる管理会社に変更する
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売主の立場に立った適切な売却価格の提案が期待できる会社を選ぶ
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売却活動にあたり、入居者対応の手伝いや引越し対応などのサポートが期待できる会社がよい
売却時の管理会社変更では、以下の点にも注意が必要です。
注意点 |
内容 |
---|---|
契約期間 |
売却までに十分な期間があるか確認する |
解約違約金 |
売却を理由に免除される場合もある |
引き継ぎ |
入居者情報や修繕履歴など、確実な引き継ぎが重要 |
このように、売却時の管理会社変更では、売却活動を円滑に進められるかどうかが大きなポイントとなります。売主の立場に立った対応が期待できる会社を選ぶことが肝心です。
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4.管理会社変更の手順と注意点
(1)現在の管理委託契約内容を確認する
管理会社を変更する際は、まず現在の管理委託契約内容を確認することが重要です。契約書をよく読み、以下の点に注意を払いましょう。
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契約期間と解約条件
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一般的な契約期間は1年から3年程度です
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解約時の予告期間や違約金の有無を確認
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管理会社の業務内容
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募集広告、契約手続き、入居者管理など
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修繕対応範囲や修繕積立金の取り扱い
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報酬体系
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月額固定報酬と成功報酬の比率
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実費精算費目と上限金額
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項目 |
内容 |
---|---|
契約期間 |
○年間 |
解約予告期間 |
○ヶ月前 |
違約金 |
○ヶ月分の報酬相当額 |
このように現行契約内容を把握することで、スムーズな移行が可能になります。
(2)解約予告期間と違約金に注意する
管理委託契約を解約する際は、契約書に記載されている解約予告期間を必ず確認しましょう。通常は3~6カ月前からの予告が求められます。
管理会社 |
解約予告期間 |
---|---|
A社 |
6カ月前 |
B社 |
4カ月前 |
C社 |
3カ月前 |
予告期間を守らずに解約すると、違約金が発生する可能性があります。違約金の額も契約書を確認し、事前に把握しておく必要があります。
例えば、「残余期間の手数料の50%」といった違約金の定めがあれば、解約時期によって違約金の額が変わってきます。
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残り1年の場合: 1年分の手数料の50%
-
残り6カ月の場合: 6カ月分の手数料の50%
このように、契約解除には気を付けるべき点がいくつかあります。解約予告期間と違約金について、しっかりと確認し対応することが重要です。
(3)新しい管理会社を選定する
新しい管理会社を選ぶ際は、まず複数の会社を比較検討することが重要です。見積もりを取り、以下の5つのポイントを確認しましょう。
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実績と信頼性
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管理戸数や管理歴
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賃貸経営に関する専門知識
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苦情対応力
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集客力と空室対策
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広告宣伝の方法
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空室対策の具体策
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過去の実績
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コスト削減への取り組み
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修繕費用の削減策
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管理コストの適正水準
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修繕対応力
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修繕業者のネットワーク
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迅速な対応体制
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報告体制
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月次報告の内容と頻度
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オーナーとのコミュニケーション
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上記の点を総合的に判断し、自身の物件や経営方針に合った管理会社を選びましょう。
(4)入居者へ変更理由と日程を丁寧に説明する
管理会社変更にあたっては、入居者への十分な説明が欠かせません。変更理由や新しい管理会社の概要、変更日程などを記した文書を作成し、入居者全員に配布します。
文書には、以下の内容を盛り込むことをおすすめします。
内容 |
例 |
---|---|
変更理由 |
・集客力の低下 |
新管理会社の概要 |
・会社概要 |
変更日程 |
・引き継ぎ期間 |
その他 |
・連絡先の変更 |
文書の配布とあわせて、入居者説明会の開催も検討しましょう。直接質疑応答ができ、スムーズな変更につながります。
変更後も、新管理会社からの連絡や対応に不安がないか、アンケートなどで確認することが大切です。入居者との良好な関係を損なわないよう、細やかな配慮が求められます。
(5)引き継ぎを綿密に行う
管理会社変更時の引き継ぎは非常に重要です。前後の管理会社間で、以下の項目について綿密な引き継ぎを行う必要があります。
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入居者情報
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入居者名簿
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賃貸借契約書の写し
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敷金・礼金・保証金の内訳
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建物・設備情報
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建物の図面・設備機器の仕様書
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修繕履歴
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点検記録
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保守業者一覧
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経理情報
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過去の収支状況
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現在の預り金など残高状況
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税務関連書類
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引き継ぎ漏れがあると、トラブルの原因となるため、両者で綿密に確認しましょう。特に入居者情報と経理情報は、賃貸経営において極めて重要です。
入居者情報 |
経理情報 |
---|---|
入居者名簿 |
収支状況 |
契約書の写し |
預り金残高 |
敷金・礼金内訳 |
税務関連書類 |
引き継ぎ時には、上記のような表を用いて双方で内容を確認することをおすすめします。引き継ぎ時の努力が、円滑な賃貸経営につながるのです。
5.新しい管理会社を選ぶポイント
新しい管理会社を選ぶ時は、様々な観点から総合的に検討し、自分の物件に最適な管理会社を選ぶことが大切です。
(1)実績と信頼性
管理戸数や管理年数、賃貸経営ノウハウなどの実績を確認します。大手であれば安心できますが、現場で実績のある会社も検討します。
(2)集客力と空室対策
ホームページの質、広告宣伝費、営業力など、効果集客力を持って対策を検討します。また、空室期間を短縮する工夫があるかどうかも重要です。
(3)コスト削減への取り組み
管理費や修繕費用、仲介手数料などのコストが適正かどうかを確認します。コストを真剣に工夫があると経営がしやすくなります。
(4)修繕対応力
24時間体制や、修繕業者の確保状況など、修繕対応力が高いかどうかを見極めます。スピーディーな対応は入居者満足度の向上に直結します。
(5)報告体制
運営状況や収支状況の報告頻度、報告内容の透明性など、細かい報告体制があるか確認しましょう。
管理会社選びのポイント詳しくはこちら↓
6.まとめ
賃貸経営において、管理会社を変更するタイミングは非常に重要です。
集客力の低下や管理コストの高止まりなど、現在の管理会社に課題がある場合は、次の好機を見計らって変更を検討するべきでしょう。
変更のベストタイミング |
詳細 |
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契約期間満了時 |
違約金の発生を避けられる |
大規模修繕・建て替え時 |
新しい管理体制で対応できる |
売却を検討している時 |
売却価格に影響する可能性がある |
新しい管理会社選定に当たっては、実績と信頼性、集客力、コスト削減への取り組み、修繕対応力、報告体制などを総合的に見極める必要があります。
入居者への丁寧な説明と、現在の管理会社との綿密な引き継ぎも欠かせません。適切なタイミングと手順を踏んで、賃貸経営を改善していきましょう。