賃貸経営のプロに聞く!よくある入居者トラブルと専門家が解説する適切な対処法

入居者トラブル

1.はじめに

不動産賃貸経営において、入居者トラブルは避けて通れない課題です。家主と入居者の双方にストレスを与え、場合によっては経済的な損失にもつながります。

賃貸経営のプロフェッショナルが実際に経験した事例を基に、よくあるトラブルの種類と適切な対処法をご紹介します。

トラブルの種類

具体例

家賃の滞納

長期の家賃未納

騒音など他入居者からの苦情

夜間の異常な騒音

ペット飼育などの規約違反

無断でペットを飼う

設備の破損や水漏れ

台所の水漏れ放置

汚部屋や原状回復トラブル

退去時の不適切な清掃

入居者トラブルへの適切な対応次第で、物件の資産価値の維持や良好な賃貸経営が可能になります。次の章以降では、実践的な対処法をご説明していきます。

 

2.賃貸経営で起こりがちな入居者トラブルの種類

(1)家賃の滞納

賃貸経営において、最も一般的な入居者トラブルは家賃の滞納です。滞納が長期化すると大きな損失につながるため、早期の対応が重要になります。

一般的な対処法

①電話や訪問で事情を確認する

②文書で支払い催告をする

③内容証明郵便で期限を設ける

④期限後は明渡し請求へ

まずは入居者の事情を把握することが大切です。単なる支払い遅れなのか、経済的な理由があるのかを確認し、状況に応じた対応が求められます。 金銭的な事情がある場合は、支払い計画の立案など柔軟な対応も検討するべきでしょう。一方で、期限を再三無視される場合は、法的措置に踏み切る必要があります。

家賃滞納は放置できない重大な問題です。入居者とコミュニケーションを密に取り、状況に応じて対処法を変えていくことが肝心です。

最近では、賃料保証会社を利用するケースが多くなっています。滞納があっても保証会社が賃料を支払ってくれるから安心!と思いがちですが、そうではありません。

賃料保証会社の仕組みと注意点についてはこちら↓

(2)騒音など他入居者からの苦情

賃貸経営においては、入居者同士のトラブルも避けられません。特に多いのが騒音に関する苦情です。夜間の大声や音楽、足音、子供の遊び声など、日常生活から発生する音が原因となることがあります。

主な騒音トラブル例

夜間の大声や音楽

子供の遊び声

足音

ペットの鳴き声

このような苦情が寄せられた場合、まずは冷静に事実関係を確認する必要があります。苦情の内容と時間帯、頻度などを把握し、管理規約に照らして対応を検討します。場合によっては、近隣トラブル相談窓口などの専門機関に相談するのも有効でしょう。

苦情の当事者に対しては、まず口頭で注意を促します。改善が見られない場合は文書で通知し、最終的には内容証明郵便による警告を行います。それでも改善が見られない重大な事例に関しては、契約解除や明け渡し請求に踏み切る必要があります。

(3)ペット飼育などの規約違反

賃貸物件には、ペットの飼育や騒音、喫煙などに関する規約があります。入居者がこれらの規約に違反すると、トラブルの原因になります。

例えば、ペットの飼育が認めていない物件で無断でペットを飼っていた場合、以下のような対応が必要です。

  1. 規約違反の事実を確認する

  2. 入居者に口頭や文書で注意を行う

  3. 改善が見られない場合は内容証明で厳重注意

  4. それでも改善されない場合は契約解除や明け渡し請求を検討する

規約違反の例

対処法の例

ペットの無断飼育

事実確認→注意→内容証明→契約解除検討

深夜の騒音

事実確認→注意→内容証明→特定反復防止措置

喫煙や臭い

事実確認→注意→原状回復の申し入れ

このように、規約違反については事実確認と段階的な対応が重要です。改善が見られない場合は、最終的に契約解除や明け渡し請求を検討する必要があります。

(4)設備の破損や水漏れ

設備の破損や水漏れも賃貸経営で起こりがちな入居者トラブルです。入居者の不注意によって発生する場合が多く、放置すれば修繕費用の増大や次の入居者への影響が懸念されます。

トラブル例

対処法

住宅設備の故障

入居者に確認し、過失があれば修理代の請求

台所の水漏れ

早期発見と修理業者の手配、被害拡大防止、火災保険対応

ドアの破損

故意の場合は損害賠償請求、事故なら修理費用分担

入居者に起因する場合は、まず事実関係を確認します。口頭や文書で注意を促し、損害があれば賠償を求めます。必要に応じて契約解除や明け渡しを請求することも検討しましょう。

一方、設備の経年劣化による故障は賃貸人側の責任です。設備管理を徹底し、定期的な点検や修繕で予防に努めましょう。トラブルの未然防止と早期発見が賃貸経営では重要となります。

(5)汚部屋や原状回復にかかるトラブル

入居者が退去時に部屋を汚れた状態で残したり、設備や壁などに損傷を与えた場合、原状回復の費用をめぐってトラブルになることがあります。

特に入居者側の故意や過失が認められる場合は、以下のような費用が発生する可能性があります。

原状回復費用の例

壁の張り替え費用

畳の入れ替え費用

水周り設備の修繕費用

ゴミ屋敷の片付け費用

このようなトラブルを防ぐためには、入居時に「現状回復は賃貸住宅トラブル防止ガイドライン(通称:東京ルール)に沿って行う」ことを契約書に明記しておくことが重要です。

トラブルが生じた場合は、まずは入居者と対話を重ね、修繕費用の負担割合を協議します。合意が得られない場合は、訴訟などの法的手段も検討する必要があります。

東京ルールについて詳細はこちら↓

東京ルール徹底解説!トラブル知らずの賃貸経営を実現する方法
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3.入居者トラブルを放置するリスク

(1)トラブルの長期化で解決が難しくなる

賃貸経営において、入居者とのトラブルが長期化すれば、その解決は一層困難になります。

例えば、家賃の滞納については、早期に納付を促さない場合、滞納月数が増えるほど支払い額が膨れ上がり、一括での支払いが難しくなります。以下のように、滞納月数による未払い家賃の累計額は加速度的に増大していきます。

滞納月数

1室あたりの未払い累計額(家賃5万円の場合)

3カ月

15万円

6カ月

30万円

12カ月

60万円

さらに、長期の滞納が続けば、入居者の転居や営業トラブルなどでの支払い拒否に発展する恐れもあり、和解の余地が失われてしまいます。

同様に、騒音やペット飼育など、規約違反のトラブルについても、長期化すれば入居者の常習化を招き、改善が困難になるだけでなく、他の入居者からのクレームも高まり、物件の評判が著しく低下する可能性があります。

このように、いずれのトラブルも長期化すればするほど、解決は難しくなります。そのため、早期の対応が不可欠です。

(2)物件の評判が下がり、空室が増える

入居者トラブルが長期化すると、物件の評判が下がる恐れがあります。例えば、家賃滞納や騒音トラブルなどが解決されずに放置されていると、周辺住民からの苦情が相次ぎ、その物件自体の評価が低下してしまいます。

そうなると、次の入居者を見つけるのが困難になります。新規の入居希望者は、以下のようなデメリットを懸念するためです。

デメリット

内容

トラブル恐れ

トラブルのある物件では、自身も巻き込まれる可能性がある

環境の悪化

周辺の治安が悪化し、生活環境が損なわれる

投資リスク

物件の資産価値が下がり、投資として割に合わない

このように、入居者トラブルを放置すれば、新規の入居者確保が難しくなり、結果として空室が増加する恐れがあります。物件運営に深刻な影響を及ぼしかねません。

(3)入居者全体のモラルが低下する

入居者トラブルを放置すると、当該入居者のモラルだけでなく、建物全体の入居者のモラルが低下してしまうリスクがあります。

例えば、以下のようなケースが考えられます。

  • 家賃の滞納者がいるのに放置されている

  • ペットの飼育ルール違反者に対して何の措置も取られていない

  • 共用部分の損傷や汚れが放置されたままになっている

放置の例

他の入居者への影響

家賃滞納

「自分も払わなくてもいいのでは」と考えるようになる

ルール違反放置

ルールを守る意識が薄れる

物件の損傷放置

物件への愛着が無くなり、さらに損傷が進行する

このように、入居者トラブルが放置されると、ルールを守ろうとする入居者のモラルが低下し、さらなるトラブルの発生にもつながりかねません。オーナー、管理会社共に、入居者トラブルには早期に適切な対応を取る必要があります。

 

4.入居者トラブル発生時の適切な対処法

(1)早期の事実確認と状況把握

入居者トラブルが発生した際、迅速かつ適切な対応が何より重要です。まずは早期に事実関係を確認し、状況を正確に把握することが肝心です。

状況把握の際は、以下の点に留意しましょう。

  • 入居者からの申し出の有無を確認する

  • 現地調査を行い、物的証拠を収集する
    (例:騒音の録音、破損個所の写真撮影など)

  • 関係者(入居者、管理会社など)から事情を聴取する

事実関係を正確に把握できれば、適切な対処法を選択することができます。例えば、以下のように対応が異なります。

トラブルの内容

対処法の例

単なる設備の破損

修繕費の請求

故意による設備破壊

契約解除、損害賠償請求

状況把握が不十分だと、後に大きな問題に発展する恐れがあります。入居者とのトラブルでは特に、冷静に事実関係を把握することが何より大切なのです。

(2)口頭や文書での注意、内容証明の送付

入居者からのトラブル行為が確認された場合、まずは口頭や文書で注意を促すことが重要です。初期の対応次第で、トラブルの深刻化を防ぐことができます。

口頭での注意は、入居者との面談を設けて行います。トラブルの内容や規約違反の事実を伝え、改善を求める旨を丁寧に説明しましょう。

口頭注意の際の留意点

・落ち着いた口調で伝える

・トラブルの内容を具体的に示す

・改善期限を設定する

一方、文書による注意では、「内容証明」の送付が有効です。内容証明は、あとから事実関係を立証できる重要な書類となります。

内容証明の記載事項(例)

・トラブルの内容

・規約違反の条項

・期限までに改善がない場合の対応

トラブルが長期化する場合は、弁護士などの専門家に相談し、契約解除や明け渡し請求などの法的手段を検討する必要があります。

(3)必要に応じて契約解除や明け渡し請求

入居者トラブルの内容や程度によっては、最終的に契約解除や明け渡し請求といった法的手段に踏み切る必要があります。

契約解除が必要な場合

明け渡し請求が必要な場合

・家賃の長期滞納

・契約期間満了後の明渡拒否

・重大な規約違反

・建物の現状変更や重大な破損

・他の入居者への迷惑行為

・入居者の死亡や失踪など

このような事態に至る前に、早期の段階から事実関係を確認し、文書による注意を重ねることが重要です。状況が改善されない場合は、内容証明郵便などで正式に契約解除や明け渡しを通告します。

入居者の反発が予想される場合は、弁護士や警察など専門家に相談し、適切な対応を取る必要があります。法的措置には時間とコストがかかるため、トラブルの未然防止と早期解決に努めましょう。

(4)専門家への相談

入居者トラブルの内容や程度によっては、自身で対応するよりも専門家に相談する方が賢明です。弁護士や司法書士、賃貸経営のコンサルタントなど、それぞれの専門分野の知見を活用することで、より適切な対処法が見つかる可能性があります。

専門家

相談内容の例

弁護士

契約解除や明渡請求、損害賠償請求など法的手続き全般

司法書士

内容証明の送付、債権回収など文書作成

賃貸経営コンサルタント

トラブル対処のアドバイス、テナント対応のノウハウ

専門家に相談する際は、トラブルの経緯や現在の状況を詳しく説明するとともに、今後の対応方針についても助言を求めるとよいでしょう。費用はかかりますが、トラブル対応を誤ると余計な損害が生じる可能性もあるため、コストパフォーマンスを考えれば専門家に相談するメリットは大きいと言えます。

 

5.入居者トラブルを未然に防ぐ対策

(1)入居審査の徹底

入居者トラブルを未然に防ぐ上で、入居審査は非常に重要な対策です。賃貸経営においては、適切な入居者を選定することが大前提となります。

入居審査では、以下の観点から入居希望者の資格を慎重に確認する必要があります。

審査項目

確認事項

収入

家賃の3倍以上の安定した収入があるか

勤務先

正社員など雇用形態の安定性

連帯保証人

親族など適切な保証人の有無

前居住状況

トラブル歴がないか

入居目的

不適切な目的でないか

また、入居申込書の記載内容と本人確認書類を照合し、虚偽申告がないか精査します。面接を実施し、マナーや人となりを判断することもトラブル防止に有効です。

入居審査は慎重に行い、トラブルリスクの高い入居者は避けることが肝心です。審査を怠ると、後々大きな損失を被る可能性があります。賃貸経営の安全性を高めるためにも、入居審査を徹底することが不可欠といえます。

(2)契約時の規約説明とトラブル対応方針の共有

契約時には、入居者に対して賃貸借規約を丁寧に説明することが重要です。規約には、騒音や迷惑行為の禁止、ペットの飼育ルール、設備の扱い方など、入居中のマナーや注意事項が定められています。

入居前に規約の内容を理解してもらい、同意を得ておくことで、トラブル発生時の対応がスムーズになります。特に、以下の点を必ず説明しておきましょう。

説明ポイント

具体例

規約違反への対応方針

・口頭注意→文書注意→契約解除の流れ

敷金の精算方針

・原状回復にかかる費用は敷金から差し引く

損害賠償請求の可能性

・故意や重大な過失があれば損害賠償を求める

規約の内容と対応方針を共有しておけば、トラブル発生時の入居者の理解も得やすくなり、スムーズな解決につながります。

(3)定期的な物件の状況確認

定期的に物件の状況を確認することは、入居者トラブルの未然防止に非常に効果的です。

確認項目

内容

外観・共用部

破損や汚れの有無

室内

原状回復義務違反の有無

設備

故障や不具合の有無

少なくとも年に1回は、事前の通知を入居者に行ったうえで立ち会いのもと、上記の項目を確認します。確認後は、入居者にフィードバックを行い、必要に応じて是正を求めましょう。

また、入退去時の立会いなど、定期的な理由で物件に立ち入る際にも、目視で状況を把握することが重要です。入居者から苦情が寄せられた場合にも、速やかに物件を確認する必要があります。

このように、定期的かつ適切なタイミングで物件の状況確認を行うことで、入居者トラブルの芽を早期に発見・対処できます。トラブルの未然防止と早期解決につながるため、賃貸経営において欠かせない対策といえるでしょう。

(4)賃貸管理会社との連携強化

入居者トラブルを未然に防ぐためには、賃貸管理会社との連携を強化することが重要です。

専門の賃貸管理会社であれば、以下のようなサポートを受けられます。

サポート内容

具体例

入居審査の代行

審査基準に基づく厳格な入居審査の実施

定期的な物件確認

定期的な内覧と現状報告

トラブル発生時の対応

入居者への指導・注意、法的手続きのサポート

規約の整備・運用

適切な規約の策定と運用サポート

このように、賃貸管理会社と連携することで、オーナー自身が行うよりも効率的かつ専門性の高い対応が可能となります。また、オーナーの負担も大幅に軽減されるでしょう。

賃貸管理は専門性が高いため、オーナー自身でトラブル対応を行うのは難しい面があります。まずは賃貸管理会社に相談し、連携を密にすることが、入居者トラブルの未然防止や適切な対処につながると言えます。

 

6.まとめ

賃貸経営において、入居者トラブルは避けられないリスクです。トラブルを放置すれば、長期化し解決が難しくなるだけでなく、物件の評判が下がり、入居者全体のモラルも低下してしまいます。

そこで大切なのが、トラブル発生時の適切な対処です。

対処法

具体的な内容

早期の事実確認と状況把握

正確な情報収集に努める

口頭や文書での注意、内容証明の送付

訴訟に備え、経緯を残す

必要に応じて契約解除や明け渡し請求

話し合いで解決できない場合の最終手段

専門家への相談

弁護士や賃貸管理会社に適切にアドバイスを求める

さらに、入居者トラブルを未然に防ぐ対策も重要です。入居審査の徹底、契約時の規約説明、定期的な物件の状況確認、賃貸管理会社との連携強化などが挙げられます。

入居者トラブルにはさまざまな種類がありますが、オーナーは適切な対処と未然防止対策を心がけることで、トラブルによるリスクを最小限に抑えられるのです。

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