【不動産賃貸経営の心得】特約条項をつける場合の賢いつけ方と注意点

契約

賃貸借契約を締結する時に、よく目にする「特約条項」。ですが、どんな内容なら有効なのか、無効になるのか、ご存知でしょうか?

この特約条項を賃貸借契約につける時に気をつけたいポイントと注意点について解説していきます。

1.特約条項とは

特約条項の定義と役割

特約条項とは、賃貸借契約においてあらかじめ定められた基本的な契約条件以外に、賃貸人と借主が個別に合意した条件のことを指します。民法上の賃貸借契約に追加される特別の条項であり、賃貸経営の実態に応じて設けられます。

特約条項は、以下のような役割を果たします。

  • 賃貸人側のリスク回避

  • 建物の適切な維持管理

  • 長期的な安定経営の実現

例えば、原状回復に関する特約条項では、借主による建物の汚損や破損に対する補修費用の負担範囲を明確にすることができます。また、利用制限に関する特約条項では、喫煙や異性宿泊、事業利用の禁止などを定めることで、建物の劣化防止やトラブル回避が可能となります。

このように、特約条項を適切に設けることで、賃貸経営におけるさまざまなリスクを回避し、安定した経営を実現することができるのです。

賃貸借契約における特約条項の位置づけ

賃貸借契約には、民法や借地借家法などの法令に定められた一般的な規定があります。一方で、賃貸人と借主双方が合意すれば、この一般的な規定に加えて特別な取り決めをすることができます。この特別な取り決めのことを「特約条項」と呼びます。

一般的規定

特約条項

法令に基づく

当事者間の合意に基づく

強行規定には従わなければならない

強行規定に反しない範囲で自由に設定可能

特約条項は、個別の賃貸物件の特性や賃貸人の方針を反映させるために設定されます。例えば、ペット飼育の可否、原状回復の範囲、解約時の違約金など、様々な事項について特約条項を定めることができます。このように、特約条項は賃貸借契約の内容を当事者間で調整する上で重要な役割を果たします。

 

2.特約条項を設ける際の法的要件

特約条項を設ける際には、以下の3点の法的要件を満たす必要があります。

強行法規に違反しないこと

  1. 民法などの強行法規に違反する内容の特約条項は、無効となります。例えば、借主の契約解除権を不当に制限する条項などは無効です。

公序良俗に反しないこと

  1. 暴力団員の入居を認める条項など、社会通念上許されない内容の特約条項は公序良俗違反となり無効です。

借主の権利を不当に制限しないこと

  1. 特約条項は、借主の法的権利を不当に制限する内容であってはなりません。例えば、敷金の無過失返還を不当に制限する条項などは無効となります。

要件違反の特約例

違反する要件

借主の契約解除権を制限する条項

強行法規違反

暴力団員の入居を認める条項

公序良俗違反

敷金の全額没収条項

借主権利の不当制限

特約条項は、上記の法的要件を満たすよう十分に検討し、公正妥当な内容としなければなりません。

 

3.よく設けられる特約条項の種類

(1)原状回復に関する特約

原状回復に関する特約では、賃貸借契約終了時の原状回復の範囲や、原状回復費用の負担区分を明確にします。

具体的には以下の点を定めることが一般的です。

項目

内容

原状回復範囲

畳の表替え、クロスの張替え、建具の交換など、原状回復が必要な箇所や程度を明記

借主負担範囲

通常の使用に伴う劣化は借主負担としない一方、借主の故意や過失による損傷は借主負担とする

原状回復費用の概算

畳表替え、クロス張替え、建具交換などの原状回復費用の概算を提示

このように、原状回復に関する特約を設けることで、原状回復範囲や借主負担の有無など、トラブルの原因となりがちな事項を予め明確にしておくことができます。賃貸人と借主双方が認識を共有し、スムーズな原状回復を実現できるメリットがあります。

(2)利用制限や利用禁止に関する特約

賃貸物件の適正な維持管理や近隣トラブルの防止のため、次のような利用制限や利用禁止に関する特約を設けることがあります。

特約条項の例

目的

喫煙の全面禁止

臭いや火災リスクの排除

石油ストーブの使用禁止

火災リスクの排除

ペット飼育の禁止

物件の損耗防止、アレルギー対策

事業利用の禁止

用途外利用の排除、近隣トラブル防止

このような利用制限や利用禁止は、借主の生活環境の確保や物件の適切な維持管理という観点から重要です。

一方で、借主の権利を不当に制限する内容であってはなりません。例えば、常識の範囲を超えた過剰な制限は、公序良俗に反する可能性があります。制限内容は具体的で明確であり、かつ合理的な範囲に留める必要があります。

(3)解約に関する特約

賃貸借契約の解約条件を明確にするため、以下のような特約条項を設けることがあります。

– 中途解約時の違約金

借主が契約期間満了前に解約する場合、残期間の家賃の一定割合を違約金として請求することを定めた条項です。違約金の金額は、残期間が長いほど高くなる傾向にあります。

例) 残期間1年以内の場合:残期間家賃の2か月分 残期間1年超の場合:残期間家賃の3か月分

– 短期解約の場合の追加料金

借主が短期間で解約する場合、追加料金を求める条項です。

例) 契約から6か月以内に解約した場合:1か月分の家賃を追加料金として支払う

このように、解約に関する特約条項を設けることで、賃貸人の経済的リスクを軽減できます。借主にも円滑な解約のルールを示すことができるため、トラブル防止にもつながります。

 

4.特約条項の有効性確保のポイント

内容が具体的で明確であること

特約条項の内容が曖昧だと、借主との間でトラブルになる可能性があります。そのため、特約条項を設ける際は、できる限り具体的な内容にする必要があります。

例えば、「原状回復に関する特約」の場合、以下のように具体的に記載することが望ましいでしょう。

具体的な例

曖昧な例

・壁の穴は全て補修すること
・畳の表替えは新品に交換すること

・原状回復をすること

このように、求める内容を詳細に示せば、借主も理解しやすくなり、トラブル防止にもつながります。

一方で、内容が極端に細かすぎても借主の生活に過剰な制約を設ける可能性があります。公序良俗に反しないよう、適度な具体性が求められます。

特約条項の文言は慎重に検討し、具体的でわかりやすい一方で、借主の権利を不当に制限しないよう留意することが大切です。

借主の権利を不当に制限しないこと

特約条項を設ける際、借主の権利を不当に制限することは避けなければなりません。借主の権利とは、賃貸借契約上の権利のみならず、生活上の権利や人権も含まれます。

特約条項は、賃貸物件の適正な管理や借主間の公平性を図るために設けるべきものです。しかし、借主の権利を不当に制限し過ぎると、裁判所によって無効とされる恐れがあります。

有効な特約条項の例

無効となりやすい特約条項の例

深夜の著しい騒音は控えること

夜間一切の生活音を禁止

事前連絡の上で立ち入り検査可

24時間いつでも立ち入り検査可

特約条項は、法令や判例に照らし合わせて、借主の権利を不当に制限しないよう慎重に検討する必要があります。

法令や公序良俗に反しないこと

特約条項の内容は、法令や公序良俗に反してはなりません。これは民法にも明記されている重要な原則です。

法令に反する例

公序良俗に反する例

借主に違法行為を強制する

借主の人権を不当に制限する

消費者契約法に違反する

極端に一方的な不利益条項

法令違反の特約は無効となり、公序良俗違反は一部無効と解釈されます。したがって、特約条項を設ける際は、その内容を十分に吟味し、法令や公序良俗に照らして適切か確認する必要があります。

賃貸経営に携わる者は、特約条項を通じて自身の利益のみを追求するのではなく、借主の権利も尊重しなければなりません。法令や公序良俗を逸脱した特約条項は、トラブルの原因にもなりかねません。適正な特約条項を設けることが、結果として賃貸経営を円滑に進める上で重要なのです。

 

5.特約条項の活用による賃貸経営の安定化

トラブル防止への寄与

賃貸経営において特約条項を適切に設けることは、大きなトラブルを未然に防ぐ上で重要な役割を果たします。例えば、以下のような特約条項を設けることでトラブルの火種を減らすことができます。

  • ペット飼育禁止条項

    ペットによる室内の汚損や臭気、他の入居者への迷惑行為を防止

  • 禁煙条項

    たばこの煙による室内の汚れや臭気、火災リスクを軽減

  • 重量物品の持ち込み制限

    重量物品の落下による建物の損傷や事故を防止

  • 大規模な室内模様替え禁止

    借主による無断の大がかりな改装工事を未然に防ぐ

特約条項があらかじめ定められていれば、借主もその内容を認識した上で契約を結ぶことになります。したがって、特約違反があった場合は、適切な対応が可能になります。こうした事前のルール設定は、トラブルの未然防止と早期解決に大きく寄与するのです。

適正な原状回復の実現

特約条項には、借主による原状回復義務の範囲や程度を明確にするものがあります。例えば、以下のような内容が設けられることがあります。

  • 入居時の現況と異なる場合の原状回復義務

  • クロス張替え、建具の塗装など一定の更新工事の実施義務

  • エアコン洗浄、家具の補修、ゴミ撤去など清掃・修繕の範囲

このように、入居時の状態への復旧に加えて、借主の負担で一定の修繕や更新工事を義務付けることで、物件の資産価値を維持することができます。ただし、借主の権利を不当に制限したり、過度な費用負担を求めるような内容は避ける必要があります。

原状回復義務の範囲や程度を具体的に定めることで、退去時のトラブル防止と、適正な原状回復の実現が期待できます。また、長期的には物件の資産価値の維持につながり、安定した賃貸経営を実現できるでしょう。

長期安定経営の実現

適切な特約条項の活用により、賃貸経営の長期的な安定化が図れます。主な点として以下が挙げられます。

  • トラブル防止への寄与

    利用制限や解約条件などを明確にしておくことで、借主とのトラブルを未然に防ぐことができます。

主な特約条項

トラブル防止の効果

利用制限

迷惑行為の未然防止

解約条件

借主の中途解約抑制

  • 適正な原状回復の実現

    原状回復の範囲や違反時の措置を定めることで、借主による適切な原状回復を促すことができます。

  • 長期安定経営の実現

    上記のようなトラブル防止と適正な原状回復により、借主の入れ替わりを抑え、長期的な収益の安定化が期待できます。

このように、特約条項は賃貸経営における長期的なリスク回避に大きく寄与します。内容を慎重に検討し、適切に活用することが重要です。

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