不動産賃貸経営と相続にかかる税金の基礎知識

節税&相続

 

1. はじめに

不動産賃貸経営と不動産相続における税金について理解することは、賃貸経営者や相続人にとって非常に重要です。本記事では、不動産賃貸経営にかかる税金の種類や計算方法、さらに不動産相続時に発生する税金について詳しく解説します。これにより、賃貸経営をスムーズに行い、相続時のトラブルを回避するための知識を提供します。

2. 不動産賃貸経営にかかる税金

2.1 所得税

不動産賃貸経営における所得税は、賃料収入から必要経費を差し引いた金額に対して課税されます。所得税の計算は以下の手順で行います。

所得税の計算方法

  1. 賃料収入の把握
    • 1年間の総賃料収入を集計します。
    • 例: 月額賃料が100万円の物件を1年間貸し出した場合
        年間総賃料収入 = 100万円 × 12ヶ月 = 1,200万円
  2. 必要経費の計上
    • 賃貸経営に必要な経費を算出します。これには以下のような費用が含まれます。
      • 管理費
      • 修繕費
      • 減価償却費
      • 税金(固定資産税など)
      • 火災保険料
      • 水道光熱費
    • 例: 管理費が年間120万円、修繕費が100万円、減価償却費が300万円、固定資産税が80万円、火災保険料が10万円、水道光熱費が30万円の場合
        必要経費合計 = 120万円 + 100万円 + 300万円 + 80万円 + 20万円 + 30万円 = 650万円
  3. 不動産所得の計算
    • 総賃料収入から必要経費を差し引いた金額が不動産所得となります。
    • 例: 年間総賃料収入が1,200万円、必要経費が650万円の場合
        不動産所得 = 1,200万円 – 650万円 = 550万円
  4. 課税所得の計算
    • 他の所得(給与所得など)と合算し、総所得金額を求めます。
  5. 所得控除の適用
    • 所得税の計算では、基礎控除や扶養控除、社会保険料控除などの各種控除が適用されます。
  6. 所得税の税率適用
    • 所得税は累進課税方式で、課税所得金額に応じて税率が異なります。以下は2023年の税率です。
      課税所得 税率
      195万円以下 5%
      195万円超〜330万円以下 10%
      330万円超〜695万円以下 20%
      695万円超〜900万円以下 23%
      900万円超〜1,800万円以下 33%
      1,800万円超〜4,000万円以下 40%
      4,000万円超 45%
  7. 最終的な所得税額の算出
    • 課税所得に対する税率を適用して、最終的な所得税額を計算します。

2.2 固定資産税・都市計画税

不動産賃貸経営において、固定資産税は毎年発生する重要な税金の一つです。固定資産税の基本的な内容に加え、都市計画税、税率、そして住宅用の敷地に適用される軽減税率についても解説します。

固定資産税の基本

固定資産税は、不動産(土地・建物)を所有している限り、毎年1月1日時点の所有者に課される税金です。税額は、不動産の評価額に基づいて算出されます。評価額は市区町村が定める固定資産税評価基準に従って決定され、土地や建物の種類、用途によって異なります。

都市計画税

都市計画税は、都市計画区域内に所在する土地や建物に対して課される税金です。この税金は、都市計画事業や土地区画整理事業などの財源となります。都市計画税は固定資産税と同様に、不動産の評価額に基づいて計算されます。

税率

固定資産税の税率は、標準的には評価額の1.4%です。これを標準税率と言います。しかし、税率は自治体によって1.4%を上回って設定することも可能です。以下に標準税率を示します。

  • 固定資産税の税率:課税標準の1.4%
  • 都市計画税の税率:課税標準の0.3%(上限)

課税標準:市町村の固定資産課税台帳に登録された評価額

住宅用の敷地に適用される軽減税率

住宅用地に対しては、固定資産税と都市計画税の軽減措置が適用されます。これは、居住用の土地に対して税負担を軽減するための措置です。

  • 小規模住宅用地(住宅1戸あたり200㎡以下の部分)
    • 固定資産税:評価額の1/6
    • 都市計画税:評価額の1/3
  • 一般住宅用地(200㎡を超える部分)
    • 固定資産税:評価額の1/3
    • 都市計画税:評価額の2/3

具体例

住宅用地の評価額が3,000万円の場合の固定資産税と都市計画税の計算例を示します。

    1. 小規模住宅用地(200㎡以下の部分)
      • 評価額:3,000万円
      • 固定資産税:3,000万円 × 1/6 × 1.4% = 7万円
      • 都市計画税:3,000万円 × 1/3 × 0.3% = 3万円
    2. 一般住宅用地(200㎡を超える部分)
      • 追加で800万円の評価額があると仮定(合計3,800万円)
      • 固定資産税:800万円 × 1/3 × 1.4% = 3.73万円
      • 都市計画税:800万円 × 2/3 × 0.3% = 1.6万円

2.3 消費税

不動産賃貸経営において、住宅の賃貸は原則として非課税取引となりますが、事業用物件の賃貸は課税取引となります。そのため、事業用物件の賃貸収入には消費税がかかります。消費税率の変更や免税事業者の基準に留意し、適切に対応することが求められます。

 

3. 不動産相続にかかる税金

3.1 相続税

相続税の計算方法

相続税は、相続人が遺産を受け取る際に発生する税金です。相続税の計算は、遺産の総額から基礎控除額を差し引いた課税遺産総額に対して行われます。

基礎控除額は、下記の式で計算します。
「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」

小規模宅地の特例は、一定の条件を満たす宅地等について、その評価額を大幅に減額する制度です。これにより、相続税の負担を軽減することができます。小規模宅地の特例には、以下の3種類があります。

  1. 特定居住用宅地等の特例
  2. 特定事業用宅地等の特例
  3. 貸付事業用宅地等の特例
特定居住用宅地等の特例

特定居住用宅地等の特例は、被相続人が住んでいた宅地を相続する場合に適用されます。この特例により、評価額が80%減額されます。適用要件は以下の通りです。

    • 配偶者が相続する場合:特に要件はなく、配偶者はこの自宅に住んでいなくてもこの特例の適用ができる
    • 同居していた親族(子など)が相続した場合:相続税の申告期限(相続のあった日の翌日から10カ月以内)まで所有し続け、かつ住み続けていれば適用できる
    • 同居していない親族(子など)が相続した場合:適用要件は下記を全て満たす必要がありかなり厳しい
        ・被相続人に配偶者も同居親族もいない
        ・過去3年以内に自己、自己の配偶者、3親等以内の親族などが所有する家に住んだことがない
        ・相続税の申告期限まで所有し続ける
        ・相続開始時に居住していた家を過去に所有していたことがない

      別居していても、持ち家がなく賃貸住宅に住んでいる親族が実家を相続した場合に使えます(「家なき子特例」)。反対に、持ち家がある別居の親族には適用されません

特定事業用宅地等の特例

特定事業用宅地等の特例は、被相続人が事業用に使用していた宅地を相続する場合に適用されます。この特例により、評価額が最大80%減額されます。適用要件は以下ののもがありますが詳細はここでは省きます。

  • 被相続人が事業を行っていた宅地であること。
  • 相続人がその宅地を引き続き事業用として使用すること。
  • 相続開始から相続税の申告期限まで、その宅地を所有し続けること。
貸付事業用宅地等の特例

貸付事業用宅地等の特例は、被相続人が賃貸事業用に使用していた宅地を相続する場合に適用されます。この特例により、評価額が最大50%減額されます。適用要件は以下の通りです。

1. 相続開始前の要件

① 相続開始前3年以内に貸し付けられた宅地等でないこと

この要件は、相続開始前3年以内に貸付けられた宅地等については、特例の適用が認められないというものです。ただし、被相続人が事業的規模(5棟10室基準)で賃貸事業を行っていた場合には、この3年以内の貸付でも特例の適用が可能です。

② 建物又は構築物の敷地であること

貸付事業用宅地等は、建物や構築物の敷地であることが必要です。具体的には、アパートやマンション、一戸建て住宅などの賃貸建物の敷地であることが求められます。

ちなみにアスファルト舗装等が施されていない土がむき出しの駐車場については、貸付事業用宅地等には該当しないので注意が必要です。

③ 相当の対価による貸付であること

貸付が相当の対価(市場相場に見合った賃料)によるものでなければなりません。これは、形式的な貸付ではなく、実質的に賃貸事業が行われていることを示すための要件です。

④ 相続開始日に空室がある場合には一時的な空室であること

相続開始日において、貸付対象の建物が空室であっても、一時的なものであれば特例の適用が可能です。一時的な空室とは、例えば新しい入居者を募集している期間や、短期的な改修工事の期間を指します。

2. 相続開始後の要件

① 申告期限までの遺産分割要件

相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月以内)までに、遺産分割が確定していることが必要です。遺産分割協議が成立していない場合、特例の適用を受けることができません。

ただ、例外的に申告期限まで遺産分割が確定していなくても相続税申告書に申告期限後3年以内の分割見込書を添付すれば、小規模宅地の特例の適用ができます。遺産分割が確定していないで申告することを未分割申告といいます。

② 申告期限までの事業継続要件

相続税の申告期限まで、その宅地等が引き続き貸付事業に使用されていることが必要です。相続人が賃貸事業を継続する意思と実態があることが求められます。

③ 申告期限までの保有継続要件

相続税の申告期限まで、その宅地等を相続人が保有し続けることが必要です。申告期限までに売却や用途変更を行った場合、この特例の適用は受けられません。

3. 限度面積と減額割合

限度面積

貸付事業用宅地等の特例の適用を受けることができる限度面積は、200㎡までです。200㎡を超える部分については、特例の適用がありません。

減額割合

貸付事業用宅地等の評価額は、50%減額されます。この減額により、相続税の負担が大幅に軽減されます。

具体例

例えば、被相続人が所有していた賃貸アパートの敷地(評価額が4,000万円、面積が200㎡)について、この特例の適用を受ける場合、評価額が50%減額されます。

  • 評価額:4,000万円
  • 減額後の評価額:4,000万円 × 50% = 2,000万円

この特例により、相続税の課税対象となる評価額が半分に減るため、相続税の負担が軽減されます。

3.2 不動産取得税

不動産取得税は、不動産を取得した際に一度だけ発生する税金です。相続による不動産取得はこの対象となりません。

3.3 登録免許税

不動産相続に伴う登記手続きにも登録免許税がかかります。

登録免許税率は、不動産の固定資産税評価額の0.4%です。

例えば固定資産税評価額が6,000万円の土地を相続登記する場合の登録免許税額は、
6,000万円×0.4%=24万円です。

この税額に加えて、登記手続きを司法書士に依頼した場合には報酬を支払う必要があります。

 

4. 不動産賃貸経営と相続税対策

4.1 賃貸経営を通じた相続税の軽減策

賃貸物件を活用することで、不動産の評価額を圧縮し、相続税を軽減する方法があります。例えば、賃貸住宅の評価額は、通常の評価額よりも低く設定されるため、相続税の負担を軽減することが可能です。また、遺言書や信託を活用することで、相続時のトラブルを未然に防ぐことができます。

4.2 税理士や専門家への相談

不動産賃貸経営や相続税の対策には専門的な知識が必要です。税理士や不動産コンサルタントに相談することで、最適なアドバイスを受けることができ、税務リスクを最小限に抑えることができます。信頼できる専門家を選ぶためには、過去の実績や専門分野を確認することが重要です。

4.3 長期的な視点での計画

不動産賃貸経営と相続のバランスを考えることは、長期的な資産運用において不可欠です。賃貸経営の収益性を高めると同時に、将来的な資産承継を見据えた計画を立てることが求められます。これにより、安定した収入を確保しつつ、相続税の負担を軽減することができます。

 

5. まとめ

本記事では、不動産賃貸経営と相続にかかる税金について詳しく解説しました。主要なポイントとして、賃貸経営における所得税、固定資産税、消費税の計算方法、不動産相続にかかる相続税、不動産取得税、登録免許税の基本的な知識を紹介しました。また、賃貸経営を通じた相続税の軽減策や、専門家への相談の重要性についても触れました。

これらの情報を基に、今後の不動産賃貸経営や相続に備えて適切な対策を講じることができるでしょう。さらに詳しい相談や具体的な対策については、専門家に問い合わせることをお勧めします。

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