賃貸不動産を売却する流れを5つのステップで解説|プロが教える物件査定のコツ

物件売却

賃貸不動産を売却する場合、どんな流れで進めていくのか一般の不動産とは違う点もありわからなくて、誰しも不安になってしまうと思います。賃貸不動産売却のおおまかな流れを理解し注意点を意識しておくことで、安心して取引を行うことができます。では、賃貸不動産売却の5STEPをみていきましょう。

 

1.不動産売却の準備

売却のタイミングと理由を明確にする

不動産を売却するタイミングと理由は様々です。例えば以下のような場合が考えられます。

  • 所有資産を入れ替えたい

  • 老朽化による資産価値の低下が見込まれる

  • 相続や事業承継に伴う資金調達が必要になった

  • 立地環境の変化で収益性が低下した

  • 別の投資機会を活かしたいため資金を回したい

このように理由は人それぞれ異なりますが、タイミングを逸することで大きな機会損失を被る可能性があります。

売却のタイミング

留意点

賃料相場が高止まりしている時

高値で売却できる可能性が高い

税制改正で売却メリットが変わる前

有利な制度を最後に活用できる

立地環境が変わる前

資産価値の下落リスクを回避

売却のタイミングと理由を明確にすることで、売主はより有利な条件での売却を目指せます。理由と状況を冷静に見極め、最適なタイミングを逃さないことが重要です。

売却に必要な書類を準備する

賃貸不動産を売却する際に必要となる主な書類は以下の通りです。

書類名

概要

確認済証(ない場合は記載事項証明書)

建築後の検査を受けたことを確認できる公的書類です。

竣工時設計図書

平面図、立面図、断面図、設備関係が確認できる書類です。

賃貸借契約書

入居者との賃貸借契約の内容が記載された書類です。

収支決算書

物件の収支状況がわかる決算書です。数年分を用意します。

修繕履歴書

これまでの修繕工事の内容と費用がわかる書類です。

保守点検報告書

エレベーターや消防設備、貯水槽等の保守点検状況が分かる書類です。

図面

物件の間取りや配置などがわかる図面です。

これらの書類は不動産会社に提出し、査定を受ける際に重要な判断材料となります。売主は書類を事前に準備しておくことで、スムーズな売却活動につながります。書類が揃っていないと買主への説明が困難になり、売却価格への影響も生じる可能性があります。

物件の価値を事前に査定・把握する

賃貸不動産の適正な売却価格を知るには、事前に物件の査定を行うことが大切です。査定は、以下の3つの方法で行うことができます。

  1. 一括査定サイトを利用する

    一括査定サイトに入力すれば、一度の入力でサイトに登録している複数の不動産会社へ査定を依頼できます。物件の詳細や現地調査などについては、個別の連絡対応が必要です。

  2. AI自動査定を利用する
    不動産ポータルサイトに物件情報を入力すれば、AIによる自動査定額が即座に分かります。おおよその目安としては参考になりますが、正確な査定にはなりません。

  3. いくつかの不動産会社に個別査定を依頼
    実際に現地調査を行った上で査定を行うので、詳細な査定が可能です。複数の会社に査定を依頼することで、適正な売却価格の目安が立ちます。

  4. 自分で査定する
    近隣の売買事例を参考に、自分で査定することも可能です。しかし、経験が浅い場合は適正価格の見極めが難しいため、査定会社に依頼することをおすすめします。

査定方法

メリット

デメリット

一括査定サイト

手軽に概算査定が可能

正確性に欠ける

不動産会社の個別査定

現地調査による詳細査定

査定にある程度の時間がかかる

自分で査定

売主自身の価格判断が可能

適正価格の見極めが難しい

このように複数の査定方法を組み合わせることで、物件の適正な売却価格を把握することができます。

売却に伴う費用を確認する

不動産売却においては、様々な費用が発生します。事前にこれらの費用を把握しておくことが重要です。主な費用は以下の通りです。

費用項目

概要

仲介手数料

売却代金の3%程度が一般的です。

広告宣伝費

物件の魅力を訴求する広告宣伝費用です。

税金

譲渡所得に対する所得税や住民税が発生します。課税される金額によって税率が異なります。

抵当権抹消費用

抵当権設定がある場合の抹消に係る費用です。

修繕費

査定時に修繕が必要と指摘された箇所の補修費用です。

このように、不動産売却には様々な費用が発生しますので、事前に概算額を確認しておくことをおすすめします。売却価格から差し引かれる金額を認識し、手取り金額を事前に算出しておくと良いでしょう。

 

2.不動産会社の選定

複数の不動産会社に査定を依頼

不動産売却を検討する際、複数の不動産会社に個別で査定を依頼することをおすすめします。査定金額には会社によってかなりのばらつきがあるためです。

数社から査定を取ることで、適正な物件価格の目安が立てやすくなります。最低額の根拠が説明されている査定報告書を貰える場合には貰いましょう。査定額に大きな開きがある場合は、その理由を各社に確認し、最終的に売却先を判断しましょう。

また、査定依頼時に会社の実績や対応力も確認することをおすすめします。物件の適切な評価はもちろん、スムーズな売却活動が期待できる業者を選ぶことが大切です。

仲介手数料や実績、対応を比較検討

不動産会社を選定する際は、仲介手数料の水準を確認することが大切です。一般的な仲介手数料の相場は以下の通りです。

取引価格

仲介手数料率(税別)

400万円超

3%+6万円

200万円超~400万円以下

4%+2万円

200万円以下

5%

ただし、最近は手数料率を値引きする不動産会社も増えています。実際に複数社から見積もりを取り、比較検討するのがよいでしょう。

また、不動産会社の売却実績や対応力も重要です。収益不動産の取り扱い件数が多ければ、その分ノウハウも蓄積されています。営業マンの対応にも注目し、的確なアドバイスが期待できるかどうかを見極めましょう。

媒介契約時には、重要事項説明書をよく読み、仲介手数料以外の費用負担についても確認しておきます。売却活動に伴う広告宣伝費などが別途発生する場合があるためです。

媒介契約の内容を確認する

不動産会社と媒介契約を締結する際、契約内容を必ず確認しましょう。主な確認ポイントは以下の通りです。

確認ポイント

内容

専属専任・専任・一般の別

独占的な媒介権があるか

契約期間

通常は3カ月~6カ月程度

報酬額(手数料率)

売買価格の3%が相場

広告宣伝費の有無

別途費用が発生するかどうか

重要事項説明の有無

法令で義務付けられている

特に重要なのが専任・一般の別です。専任媒介なら、その不動産会社以外は媒介できません。一方の一般媒介なら、他社にも媒介を依頼できます。

また、重要事項説明書の受領は必須です。説明の有無を必ず確認し、内容を精査しましょう。契約期間や報酬額、広告費の有無など、きちんと理解した上で媒介契約を締結することが大切です。

 

3.売却活動と買主探し

物件の魅力を最大化した広告宣伝

物件の魅力を最大限引き出す広告宣伝が不可欠です。まずは、インターネットの不動産ポータルサイトへの情報掲載が有効です。写真やパノラマ画像の他、動画やバーチャル内覧会など、きめ細かい情報開示が買主にアピールできます。

広告媒体

内容

不動産ポータルサイト

詳細な物件情報・画像の掲載

自社ホームページ

物件の特長や周辺環境の解説

SNS・ブログ

ターゲット層に合わせた情報発信

また、不動産会社のネットワークを生かし、販売店舗での掲示や営業マンによる対面での案内も有用です。特に、賃貸不動産の場合は入居テナントに売出しを知られないよう、ネット非公開での販促を行うケースも多いです。

情報開示と広報活動を組み合わせて、物件の魅力を最大限アピールすることが重要です。買主の関心を引き付け、早期の売却につなげましょう。

効果的な販売促進活動

売却物件の魅力を最大限にアピールするため、以下の販売促進活動が重要です。

1. プロパティ写真・動画の撮影
良質な写真と動画は不動産購入の大きな決め手となります。プロのカメラマンに依頼し、物件の良さを存分に引き出した映像を作成しましょう。

2. 不動産会社の既存客への案内
不動産会社のネットワークを生かし、営業マンによる対面やメール等で案内します。

3. インターネット広告の活用
不動産ポータルサイトやSNSを活用し、ウェブ上で効果的に物件情報を発信します。検索上位表示や地域ターゲティングなどの手法で、より多くの人の目に留まるようにしましょう。

広告手段

活用のポイント

不動産ポータルサイト

検索連動型広告による上位表示

SNS

地域ターゲティングによる露出強化

リスティング広告

キーワード選定による適切な広告表示

このように、さまざまな販売促進活動を組み合わせて実施することが、早期売却と高値での成約につながります。

適切な条件設定で買主層を絞り込む

賃貸不動産物件の売却においては、希望の売却価格を実現するためにも、対象の買主層を適切に絞り込むことが重要です。

条件項目

絞り込みのポイント

立地条件

商業地・住宅地、駅徒歩何分圏内か

物件の規模

戸数、延床面積など

建物の構造

木造・鉄骨造など

築年数

新築・中古など

賃料相場

エリアの家賃水準に合わせる

このように、立地、物件スペック、賃料など複数の項目から絞り込みを行います。絞り込みが狭すぎると買主が現れにくくなるため、落とし所を見極めることが肝心です。

不動産会社に媒介を依頼する際は、上記の条件設定について具体的に相談し、適切な買主層を定めましょう。そうすることで、効率的な売却活動が可能になります。

 

4.売買契約と決済

買主との価格・条件の最終調整

不動産物件の売買では、最終的な価格や条件を買主と調整する必要があります。物件の状況や立地条件、市場動向などを踏まえ、適正な価格水準を見極めることが重要です。

項目

留意点

価格交渉

査定価格を上回る金額で売却するため十分な交渉を行う

売買条件

売主・買主双方にとって有利な条件を設定する

引渡時期

物件の空室状況や買主の移転時期を考慮する

特約事項

瑕疵担保責任、債務引受条件などを明確化する

価格交渉では、買主の購入意欲を損なわずに最大限の利益を確保することが肝心です。また、物件の状況に応じた適切な条件設定が求められます。売買契約書への特約事項の記載を確実に行い、トラブル防止に努めましょう。

売買契約書の作成と内容確認

売買契約書は、売主と買主の権利義務関係を明確にする重要な書類です。不動産会社が作成した売買契約書の内容を確認し、両者が合意の上で署名・捺印することが必要となります。

契約書には以下の項目が記載されています。

項目

内容

物件の表示

所在地、地番、地目、地積、建物の構造など

売買代金

売買価格、手付金、中間金、残金の支払い時期

引渡期日

所有権移転と引渡しの日時

瑕疵担保責任

物件の瑕疵(欠陥)に関する取り決め

費用負担

仲介手数料や登記費用の負担割合

契約内容に誤りや疑問点がないかを必ず確認しましょう。合意に至った場合は、売主と買主がそれぞれ契約書に記名捺印を行います。

売却代金の受領と所有権移転

売買契約が成立すると、買主から売却代金が支払われます。一般的には以下の手順で進められます。

  1. 売却代金の決済方法の確認

    • 現金一括払いか、ローン利用かを確認

    • ローン利用の場合は、金融機関の審査状況も確認

  2. 売却代金の受領

    • 現金一括の場合、代金全額を受領

    • ローン利用の場合、契約不動産残金を受領

    • 敷金などの預かり金や固定資産税、前受賃料も同時に精算

  3. 所有権移転手続き

    • 売主と買主で所有権移転登記を申請

    • 登記費用、印紙税などの実費は売主買主それぞれ負担が一般的

登記申請に必要な書類例

売買を証する書面(売買契約書の原本)

印鑑証明書(売主・買主)

住民票(売主・買主)

登記済権利書または登記識別情報(売主)

固定資産税評価証明書(売主)

所有権の移転が完了すれば、売却は完了です。売主は売却代金を受領し、買主は新たな物件所有者となります。

 

5.売却後の手続き

確定申告と譲渡所得に係る税金の支払い

不動産売却後には、税金の確定申告と支払いが必要となります。売却による所得は「譲渡所得」と呼ばれ、以下の計算式で算出されます。

譲渡所得金額 = 売却金額 - 取得費 - 譲渡費用

取得費と譲渡費用には以下のものがあります。

取得費

譲渡費用

土地・建物の購入代金や建築代金

仲介手数料

購入時の税金(印紙税、登録免許税、不動産取得税など)

印紙税

購入時の税金(印紙税、登録免許税、不動産取得税など)

借家人に支払った立退料

仲介手数料

建物解体費など

測量費、整地費、建物解体費など

売買契約締結後に支払った違約金

設備費、改良費

借地権の名義書換料など

一定の借入金利子

土地や建物を譲渡した場合、譲渡した年の1月1日現在において、所有期間が5年以下か5年を超えるかによって、課税方法が変わってきます。譲渡所得金額に対して課税される税率は、以下の通りです。

所得の種類

所有期間

税率

長期譲渡所得

5年を超える土地・建物

15.315%

短期譲渡所得

5年以下の土地・建物等

30.63%

※復興特別所得税の税率は2.1%で、これを所得税に乗じた値もプラスとなります

注意が必要なのは、この税金は住民税と合わせて支払う必要があることです。税率は市区町村によって異なりますが、概ね5%程度が加算されます。

なお、長期譲渡所得の場合、10年超え所有軽減税率には特例があります。

課税譲渡所得6,000万円以下の部分14.21%(所得税10.21%・住民税4%)
課税譲渡所得6,000万円超の部分20.315%(所得税15.315%・住民税5%)

確定申告は、原則として翌年の2月16日から3月15日の間に行います。税金の支払い期限も同時期となるため、売却代金受領後に早めに準備しましょう。

管理状況の引き継ぎ

賃貸不動産の売却が完了した後は、新所有者への管理状況の引き継ぎが重要になります。

適切な引き継ぎを行わないと、新所有者側で入居者対応や建物管理に支障をきたす恐れがあります。以下の点に留意しましょう。

  • 入居者情報の開示

    入居者の名簿や契約内容を新所有者へ開示します。

  • 管理関係書類の引き継ぎ

    • 賃貸借契約書のコピー

    • 修繕履歴や設備点検記録

    • 区分所有者名簿(マンションの場合)

  • 新賃貸人としての手続き

    • 賃借人と当たら店賃貸借契約を締結(通常は覚書の場合が多い)

    • 賃料保証会社の利用がある場合には、賃貸人変更の申請

上記の手続きを適切に行うことで、スムーズな所有者変更が可能となります。

タイトルとURLをコピーしました